Ｍｉｎｋの図書館♪（バックナンバーその２）
「居残りがくれた甘い時間」（２０００年２月２５日ＵＰ）
「こらっ！ 白石！ 白石っ！！！ いいかげんに起きろっ！！」
怒鳴り声が何度か響き、やがてねぼけた声がする。
「ふ、ふぇ…？」
よだれをたらしながら、みんくは目を覚ました。傍には恐い顔をした教師の顔があった。
「“ふぇ？”…じゃないっ！！ ここをどこだと思ってるんだね？」
「ここは、…教室ですっ☆」
「ばかも〜〜〜ん！ 授業中に寝るとは何事だあ！？ 放課後居残りだっ！」
カンカンになった教師の脇で、みんくは途方に暮れていた。
「そ、そんなぁ〜〜〜〜？ 居残り居残り居残り居残り…∞」
そんなみんくを観て、叶花が頭をかかえていた。
「あちゃ〜〜〜、みんく…。さっきから起こしてやってたのにぃ…」
放課後、結局みんくは４時まで居残りだった。
「ひどいよぉ〜〜〜。４時までなんてぇ〜〜〜〜」
べそをかきながら、みんくは教室を出た。校舎の外に出てみると、校庭では野球部や陸上部が一生懸命練習をしていた。
そんな様子を眺めていて、ふと目に入ったのが、高等部の校舎だった。
「高等部…。そういえば、あそこに先輩がいるんだよね…。」
みんくは、自然と高等部の校舎に足が向いていた。以前に先輩……もといモトハルのノートにクラス名と番号が書いてあったのを思い出していたのだった。
放課後の校舎は、高等部も人がほとんどいなかった。みんくは、モトハルの教室へとふらつくように歩いて行った。
「ここが、先輩の教室…」
みんくはドキドキが止まらなかった。同じ学園とはいえ中等部の生徒が勝手に高等部の校舎に入るなんて、あまり感心される行為ではない。そんな禁を破ってまでここへやってきたことに、みんくはとても戸惑いを感じていた。
それでも、みんくは大胆にも教室に入っていった。
「ここに、先輩が…」
バードミュージックの仕事が忙しくて、普段モトハルは学校にあまり来ていない。普通ならモトハルがいるはずも無いのだが、みんくはそんなことまで頭が回らず、感傷にふけっていた。
「…ねえ、先輩。先輩はここでどんな毎日を送っているの？ どんなふうに授業を受けているの？ 彼女とか…同じクラスにいるのかな？」
みんくは、愛しい先輩の教室にいるというだけで、胸が甘酸っぱい気持ちに満たされていた。
「もっと早く生まれて来てたら、先輩と同じ教室にいられるのに…。先輩と同じ空気を吸っていられるのに…」
切ない想いに酔って、ちょっとみんくは涙ぐんでいた。そして、いつのまにか歌を口ずさんでいた。
「きみの瞳の 百億の月…」
「ちぇッ！！ 先公のやつ、こんな時間まで…」
不機嫌な顔で、モトハルは職員室を出てきた。
「そりゃあ、学校サボってるのは事実だけどよぉ…」
どうやら、学校を休みがちな件で、担任から長々と説教をされていたようだ。
「まったく。たまに学校来ると、ロクなことがありゃしない…」
ぶつくさ言いながら、モトハルは教室に向かって行った。
「親父…。一体どこをほっつき歩いているんだ…？ バードミュージックはこれからだっていうのに…」
今は父親に早く帰ってきて欲しいモトハルだった。バードミュージックは、元はと言えば父親と共に夢を実現する場。モトハルにとっては、一人だけでは決して完成し得ない、大好きな父親と二人でつくりあげるべきものなのだ。
「ダイヤモンドの輝きを持つアイドルがいるんだぜ。ほら、聞えてこないか？ この歌が…」
目を閉じると、そこに、Ｍｉｎｋの「百億の月」が聞こえてくる…。
「ん？ ちょっとまてよ？ 百億の月…？ こ、これは…？？？」
突然モトハルは、ダッシュした。
「これは幻聴じゃない。本当に聞こえているんだっ！！ Ｍｉｎｋの声だっ！ まさか、Ｍｉｎｋが俺の学校に…？」
モトハルは気が気でなかった。こんなところにＭｉｎｋがいるのが他の生徒に知られたら、大パニックになる。
「まったく、世話の焼ける…！！！」
声はどうやら、自分の教室から聞こえてくるようだった。
突然誰かが駆けて来る足音が聞こえた。みんくがハッとしたのもつかの間。突然教室に入ってきた人影があった。
「こらっ！ Ｍｉｎｋ！ こんなとこで何を…！？」
「は、はいっ！？？？？」
思わずみんくは驚いて返事をしてしまった。そこには、モトハルが立っていた。
「せ、先輩…？」
「あ、あれ？ 白石さん…？」
モトハルはあっけにとられていた。
「白石さん…、一人だけ…？」
「え、そ、その…」
「おかしいなあ？ 確かにここからＭｉｎｋの歌う声が聞こえたんだけど…」
そう言いながら、きょろきょろして頭を掻くモトハル。
「もしかして、今の声、白石さん…？？？」
モトハルが、食い入るようにこっちを見つめる
「あ、あたしは…」
「今の歌声、白石さんだろ？ Ｍｉｎｋの声かと思ったけど、白石さんなのかい？？」
そう言ってみつめる瞳。
「い、いけないっ！？？ 正体が、ばれちゃう〜〜〜〜？？？？？」
変身したからと言って、声が変わるわけではない。声はそのまんまなのだ。
「あたしが不注意で歌ったばっかりに…。ど、どうしよぉ〜〜〜？？？」
モトハルがみんくをみつめながら近寄ってくる。みんくは、正体がばれたという恐怖におののき、涙が出てきそうになった。
その時、モトハルが、突然満面の笑みを浮かべて言う。
「すげえ！！ すげえよ！！ 白石さんって、歌がすごく上手いんだなあ！！」
「へっ…？」
予想していないモトハルの反応に、みんくはポカーンとなった。
「思わず俺でさえ、Ｍｉｎｋ自身が歌ってるんじゃないかって勘違いしちゃったぜ！！ とっても上手だよ、白石さん！！！」
モトハルは、どうやらＭｉｎｋの正体に気づいたわけではないらしかった。ほっとしたとたん、みんくは緊張がほどけて、ぽろぽろ涙が出てきた。
「お、おい、どうしたんだよ…？？」
突然みんくに泣かれて、モトハルはどうしてよいかわからなかった。どぎまぎしつつも少し考え込んで、モトハルは、急に何かを理解したような表情になった。
「はは〜〜ん。さては、白石さん、やらかしたな？」
「…え…？」
「間違って高等部の校舎に入って迷子になってるんだろう？」
あまりにも突飛なモトハルの言葉に、みんくはまたしてもポカーンとなった。
「いくら間違ったとはいえ、勝手に高等部の校舎なんかに入ったのを意地悪い先輩にみつかったら大変だゾ？ やれやれ。そそっかしいなあ」
半ばあきれたように、しかしやさしい眼差しでモトハルは笑って言う。
「そういえば真帆子が言ってたなあ。白石さんって、危なっかしくってほっておけないっていうのは、こういうことだったのかあ？」
笑いながらモトハルが言う。
「が〜〜〜ん！！ 真帆子ってば、そんなこと先輩に言ってたのぉ？ ひっど〜〜〜〜い！！」
みんくは、内心ショックで真帆子にちょっと腹をたてていた。
「やれやれ。仕方ないなあ。心配だから、この俺が白石さんをちゃんと送って言ってあげよう！ さあ、おいで！」
みんくの手を引くと、モトハルはさっさと歩き出した。
「え、先輩？ ちょっとちょっとぉ…」
モトハルに手を握られて、みんくはどきどきが最高潮になっていた。
「ああ、気にするなよ。今日は仕事も休みだし、ちゃんと送っていってやるからな。」
そう言って、ふとモトハルは立ち止まった。
「まてよ？ …そっか…。今日は仕事も無いし、たまには遊ぶのもいいなあ。」
そしてみんくの方を振り向くと、モトハルは言った。
「ねえ、白石さん。ちょっと遊んでいかないか？」
モトハルはみんくを連れて、街中のカラオケボックスにやってきた。
「俺さあ、さっきの白石さんの歌声、感激したんだよ。ぜひ、Ｍｉｎｋの歌を歌ってみてよ！」
みんくにマイクを握らせると、モトハルは「百億の月」を入力した。
「あ、あの…？ あたしが歌うんですか…？」
「さっきの歌、上手かったよ。ぜひ聴きたいなあ！」
モトハルはわくわくした表情でみんくを見つめている。
「どうしよう…？ ばれちゃうかもしれないよぉ…」
みんくが困ったような顔をしていると、モトハルが突然背後にやってきて、背中を「ポン」と叩いた。
「さあ、俺しかいないから、恥ずかしがらないで。」
モトハルから「必殺技」をくらったその時、みんくは心の動揺が妙に落ちついてきた。
「た、たぶん、ばれないよね…？」
みんくは、目をつぶると、「百億の月」を歌い出した。
「…小さく脈を打つ メロディー…」
みんくが歌っていると、いつのまにかモトハルもマイクを握って歌い出していた。
「せ、先輩…？」
みんくが思わずモトハルの顔を見上げると、モトハルもみんくの方を見下ろしてニコっと笑った。
「…なんか、これって、デートみたいだよね…。こんな素敵な時間に出会えるのなら、たまには居残りも、悪くないかなあ…？」
あま〜い気持ちに胸を満たされ、みんくは思わずモトハルのほうに肩を寄せていた。
「先輩…。いつも先輩と一緒にいるのはあたしだよ…。白石みんくだよ…。いつか気づいてくれるのかなあ…？」
でも、今はこうして一緒に二人っきりで歌っているだけでみんくは幸せだった。
「いつまでも、先輩と一緒に、こうして歌っていられたらいいのにな…」
魔法の時間がいつまでも続くといいのに…。そんな想いに包まれながら、みんくとモトハルの二人だけの時間が過ぎていくのだった…。
ところで、その夜。叶花はパソコンの画面に見入っていた。
「このよだれを垂らしているあたりが、可愛いんだよね…」
叶花がぼ〜〜〜〜っとなって見つめる画面。そこには、デジカメで撮影した写真があった。授業中に居眠りしていたみんくの寝顔が…。
「ごめんね、みんく。寝顔にみとれずにちゃんと起こしてあげてれば居残りは無かったのにね…」
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えっと…。
こんどこそまともな「ラブ・ストーリー」のつもりだったのですが、最後の最後でまたやらかしちゃいましたあ…！！ というわけで、最後の数行のおかげでまたしても「問題作」ですぅ〜〜〜。ごめんなさい〜〜〜〜。
しかも、前回の「予告」をさっそく破っちゃいました。イリヤくんの寝顔に期待されてた皆様、ごめんなさい（ちゅど〜〜〜〜〜ん！！！）。
では、次回は…、いや、やめておこう。予告と実際に書いたものがまた違ったらやばいからなあ（苦笑）。ではでは…。