Ｍｉｎｋの図書館♪（バックナンバーその７）
「Ｔｉｍｅ Ｃａｎ’ｔ Ｗａｉｔ」（２０００年７月１７日ＵＰ）
ねえ みんく…
あたしたちずっと
いつまでもこのままで
一緒にいられたらいいのにね…
＊ ＊ ＊ ＊
「叶花…。実はね、パパは近いうち異動になるかもしれないんだ…」
ある朝、パパが何気なく食卓であたしに言った。
「…え？ 異動って…、人事異動…？ つまり転勤ってこと…？」
「うん。夕べ、専務から言われたんだよ。ほとんど確実だと思う。」
そんな…。なんで突然急に…？ あたしは信じられない思いだった。
「じゃあ、あたし、この町とお別れなの…？」
「叶花、それは…。」
「引越しだなんて、そんな…」
あたしは、浮かない足取りで家を出た。
「せっかく、せっかく…」
あたしの心は、いつになくせつない想いで一杯だった。
「よっ、叶花っ！！ おっはよ☆」
後ろから突然ポンと肩を叩いてきたのは、真帆子だった。
「…真帆子…？」
「あら、ど〜したの？ なんか不景気な暗い表情しちゃってさ」
「あんた…、いつもノーテンキで、うらやまし〜ねえ…。悩みなんかなさそ〜でさ…」
「はぁ？？？？」
真帆子は、なんだかあきれたような表情であたしを見る。
「何一人でたそがれてんのよ？？ ほら、朝っぱらから暗い顔でいない！ ゲンキに学校行くよっ！」
真帆子はあたしの手を強引に引くと、スタスタと歩き出した。
…真帆子。本当にあんたって羨ましいよ…。いっつも明るく笑ってられてさ…。あたしの持ってないそーゆーとこ、いいなっていつも思うよ…。
あたしは突然立ち止まると、真帆子の手をギュッと握り締めていた。
「叶花？ ほら、早く！ 何やってんのよ？」
「ねえ…。真帆子…。あたしたち、ずっと友達だよね…。」
「はあ？？？？？ 何を今更あんた？？」
…どうしてだろう。いつもケンカばかりしている真帆子。そんな真帆子の顔が、すっごく今日はまぶしく見える。
「何か今日のあんた、変だよ。どっか具合でも悪いの？？」
真帆子が心配そうに、あたしの顔を覗き込む。
「真帆子…。実は…」
あたしが口を開きかけたそのときだった。
「おっはよーーーーーーー！！！！ 真帆子ちゃん、叶花ちゃん！！！」
いつもの声が聞こえた。その声を聞いたとたん、あたしは、ビクっとした。声のするほうをみると、それは案の定みんくだった。
「みんく…」
いつもどおりの屈託のない笑顔…。でも、あたしは、この町からいなくなってしまう…。
「さあ、叶花もみんくも、さっさと学校行くよっ。Ｇｏ！！」
「うんっ！！」
真帆子は、もう一方の手でみんくの手も取ると、あたしとみんくを引っ張って学校へ駆け出した。
「きゃはは！ もう、そんなに強く手を引っ張らないでよぉ〜」
みんくが無邪気に笑う。あとからよたよたとついていくあたし。みんくの屈託のない横顔と、みんくの無邪気な声。あたしは、意識からみんくの声をしめ出すのに必死だった…。
休み時間、あたしはなんだかぼ〜っとしていた。いつもは何気なく聞こえるクラスメートたちの声。しかし、今日のあたしには、何気なしには聞こえなかった。こんなに、クラスのみんなの声が、いとおしいなんて…。
「ねぇ…。叶花ちゃん、叶花ちゃんってば…。」
はっと気がつくと、目の前にはみんくの顔。あたしは思わず、目をそむけてしまった。
「ねえ、叶花ちゃん…。」
「な、何か…、用…？」
「叶花ちゃん、今日はどっかおかしいよ。何かあったの…？」
みんくが、心配そうにあたしに尋ねる。
「ううん、何でもないよ…。」
「うそ…。今日の叶花ちゃん、絶対におかしいよ。真帆子ちゃんも、心配していたよ。悩みがあるんなら、話してみよ〜よ…」
そう言って、みんくがあたしに手を差し伸べる。
「…な、なんでもないってばっ…」
あたしは、反射的に、その手をバっと振り払ってしまった。
「…叶花ちゃん…？？？」
「あ、ご、ごめん…」
あたしはとっさに謝った。しかし、そのときには、みんくは既に涙目だった。
「…あたしじゃ、叶花ちゃんの悩みは、聞いてあげられないんだね…」
「そ、そういうことじゃなくて…」
「……………！！」
みんくは、涙を流しながら、あたしの前から走り去ってしまった。
「…み、みんく…」
みんくを泣かせちゃった…。あたし、みんくを泣かせてしまったんだ…。みんくはあたしを心配してくれただけだったのに…。それなのに…。あたしは、あたしを心配してくれたみんくを泣かせてしまったんだ…。
でもね、言えないよ…。近いうち、この町からお別れなんて…。クラスのみんなや、真帆子とおわかれなんて…。そして、みんくと、あたしの大切なみんくとお別れなんて…。
「あんた、一体みんくに何をしたのよ？」
昼休み、真帆子があたしのところにやってきた。わざとみんなのいない屋上にやってきたというのに、真帆子ってば…。
「みんく、ずっと泣いてたよ。叶花ちゃん、叶花ちゃんって、あんたの名前をつぶやきながら…。」
「…え？ みんくが…？」
「いつまでも泣かせとくつもり？ 早くみんくを泣き止ませないと、許さないよ！」
真帆子にみんくの居場所を教えてもらい、あたしは、校舎裏の花壇のとこにいった。そこには、べそをかいたみんくがいた。
「…みんく…？」
「…叶花ちゃん…？」
あたしは、みんくのもとに駆け寄った。
「みんく…。さっきはごめん…。ごめんね…」
「叶花ちゃん…。」
みんくは、涙を拭うと、あたしの方を見た。
「叶花ちゃん、あたしこそごめんね…。叶花ちゃんが言いたくないことだってきっとあるよね…。それなのに、あたしって、無理に聞き出そうとしてたんだね…」
「そ、それは…」
「ごめんね。でも、もう、無理に聞かないよ。だから、あたしを許してね…」
「その…。みんく…、ごめん…」
みんくは、ただにっこりと微笑むと、「じゃあ…」とつぶやき、走り去って行った。
「みんく…。本当に悪いのはあたしの方なのに…。それなのに…」
結局、放課後まで、あたしはただボーっとしていたように思う。あたしって本当に嫌な子だ…。みんくに心配だけかけて、結局泣かせただけで…。
放課後になっても、あたしは、みんくに声をかけることができなかった。そうしている間に、みんくは、いつのまにか教室からいなくなってしまった。きっと、テレビ番組の収録かなんかがあるのだろう…。
「そういえば、あたしがいなくなったら、ＷＡＮＮＡ−ＢＥはどうしよう…？」
そんなことを悩みながら、あたしはパソコンを取りだし、開こうとした。そのとき、突然、
「ピピピピピピピピピ……ッ！！！」
けたたましいアラーム音が、あたしのパソコンから鳴った。
「ええ？？？」
急いでパソコンを開いて見ると、画面には無数の英数字の羅列がものすごい勢いで流れ出していた。
「し、しまった…。エラー？？？」
いけない！！ このままでは、ＷＡＮＮＡ−ＢＥも？？？
「か、叶花ちゃんっ！？？？」
そこへバタバタと教室へ戻ってきたのは、みんくだった。
「おかしいよ…。ＷＡＮＮＡ−ＢＥがおかしいよ〜〜」
みんくの携帯からも、おかしなアラーム音が聞こえる。
「変身しようと起動させたら、いきなりこんなになっちゃって…」
「いけない！！ ＷＡＮＮＡ−ＢＥがハングアップしたのかもしれない…」
「ど、どうしよぅ〜〜〜？？？？」
「仕方ないよ…。一旦システムを止めるしかないよ。みんく、携帯を貸して！！！」
幸い教室には誰もいない。あたしは、みんくから携帯を受け取ると、叫んだ。
「おねがいっ、ＮＥＴＷＯＲＫ！！ 休止（スリープ）っ！！！」
一瞬、周囲に「バチバチっ」と火花が走った。そして、さっきから鳴っていたアラーム音が、突然消えた。
「あ、叶花ちゃん、音が消えたね？」
「うん。」
「一体何だったんだろう？」
そう言いながら、みんくは何気なく窓の外を眺めた。
「…え、えええええええええっ！？？？？？？」
「ど、どうしたの？ みんく？？」
「ちょ、ちょっと、叶花ちゃん！！！！ あ、あれ！！！」
みんくが指差す窓の外をみた。そこは、学校の校庭だった。
「…あ、あれ…？ え、ええっ！？？？？」
あたしも思わず驚きの叫びをあげてしまった。校庭では、運動部の部員が練習している風景があった。しかし、その風景は、まるで写真の風景のように、動きが止まっていたのだ！
「こ、これって？」
「あたしたち以外の時間が、止まっているってこと？？？」
あたしとみんくは、顔を見合わせた。
「じゃあ、今、この世で動いているのって、あたしたちだけなんだね…」
今、世の中の時がとまり、
あたしたちだけの時間が流れている。
そう、誰にも邪魔されない、あたしたちだけの時間が…。
「ねえ、叶花ちゃん、どうしよう？？？」
みんくがおろおろしている。
「このまま、いっそのこと、時間が止まったままだったらいいのにね…」
あたしは思わず、ぼそっとつぶやいた。
ねえ、みんく…。このまま、時間が止まったままだったら、あたしたち、いつまでも一緒にいられるかもしれないね…。
ずっと、いつまでも…。
気がつくとあたしは、みんくの胸に顔をうずめていた。
「か、叶花ちゃん？？？」
「みんく、あたしね、あたしね…」
「どうしたの？ 叶花ちゃん、一体どうしたのよぅ…？」
「あたし、みんくと離れたくない…。離れたくないよぅ…。このまま、時が止まってしまえば…」
…どのくらいそうしていたのだろうか？
「ねえ、叶花ちゃん、もとにもどそうよぅ…」
みんくのつぶやきで、あたしはハッとした。あたしは、みんくの胸から顔を上げた。
「…みんく…。あたし…」
「こんな時間の止まった世界なんて、なんかやだよ…。絶対変だよ…」
みんくの顔が泣きそうに歪む。
「い、急いでもとにもどすよ…」
あたしは慌ててパソコンの操作に入った。
「おっかしいなあ。なんで、時間が止まっちゃうんだろ〜…。単にＷＡＮＮＡ−ＢＥをストップさせるためだけの機能だったのにぃ…」
後でわかったのだが、このプログラムは、パソコンの半径３メートル程度の範囲の時間は止まらないようになっていた。だから、あたしとみんくだけが動けたのだ。このＷＡＮＮＡ−ＢＥ、まさか時間を止めるなんて！ あたしの想像の及ばない、つくづくすごいソフトだ…。
休止のプログラムを解除するのはさほど難しくはなかった。ほどなく、周囲の時間は動き出した。
「ふぅ…。あとは、ＷＡＮＮＡ−ＢＥを復旧させればＯＫね…」
「いっけない！ あたし、番組の収録があるのよぅ。早くぅ…」
「でも、なんでＷＡＮＮＡ−ＢＥがハングアップしたのかな…？」
あたしは少し考えて、ハッとした。メンテナンスを今日に限って怠っていたからなのだった。一日中うわのそらだったせいで、すっかりメンテナンスのことが頭になかったのだ。
「と、とりあえず、仮プログラムを作動させるから、それで変身して…！」
どうにか、みんくは無事にＭｉｎｋになって、テレビ局へ向かうことができた。でも、帰り道、あたしの心は曇っていた。
「あたしは…、みんくを困らせてしまった…。」
今日一日ボーっとしていたせいで、あたしはメンテナンスを怠った。だから、ＷＡＮＮＡ−ＢＥが暴走したんだ…。そして、時が止まるなんていう非常時に、あたしは自分のことしか考えずに、みんくを独占しようとしてたんだ…。
「あたしがしっかりしてないせいで、みんくに迷惑を…。こんなあたしなんて、みんくの友達失格なのかな…」
そのうちあたしは、とぼとぼと家に帰りついた。
「ただいま〜」
家に入ると、パパがやってきた。
「叶花、おかえり！」
「ただいま、パパ」
「叶花っ！ パパの異動が正式に決まったぞっ！？」
「ええっ！？？？」
…そんな…。そんなに早く決まるなんて…。
「ふふふふふっ！ 聞いて驚くなよっ！？ パパは、今度部長に昇進したのさっ！！ 今の部長が重役に昇進したからね。その後釜ってわけさ。」
「え？？」
「うふふふっ！ ど〜だっ！」
Ｖサインをするパパ。
「じゃあ、引越しとかは？？？」
「別に支社に出向くわけじゃないからね。引越しなんか無いよ。」
「ほんとっ！？？？」
あたしはつい嬉しくなって、パパに飛びついた。
「パパッ、おめでとっ☆」
「こらこら、重たいぞぉ〜」
嬉しかった。あたしはこれでまたこの町にいられる。クラスのみんなと一緒にいられる。真帆子と一緒にいられる。
…そして…、みんくと一緒にいられるんだ…。
「…でも、あたしはみんくを泣かせてしまった…。みんくを困らせてしまった…。そして、あたしはみんくを独占しようとしたんだ…」
あの日、「ＳＹ：Ａ」の看板の前で誓ったのに…。
「“Ｍｉｎｋ”はあたしたちが守る」って。
そして、
「“みんく”はあたしが守る」って…。
「ごめんね、みんく。あたしなんて、もうみんくを守る資格なんてないのかもしれない…。でも…。もしも神様が許してくれるのなら、今度こそあたしはみんくを守るよ…。だから、お願い、あたしとずっと友達でいてね…。あたしを嫌いにならないでね…」
その日一晩中、あたしは静かに泣いた…。
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ううっ！
今回の話は、もうドロドロの「問題作」です…（爆）。なんか、あまりにもあからさまに「狙いすぎ」ている点が、自分で書いておきながらやや嫌気がさしていたりします。ううむ、イマイチ文章の切れ味も悪いしなあ…（苦笑）。なんか、「やっても〜た」って感じです（汗）。
自分がいざみんくと離れなければならない…という状況下に置かれた時にさらけ出された叶花ちゃんの想いは、ついに行動化してしまいます。「このまま時が止まってしまえばいい」。これは、みんくちゃんを想うがゆえの叶花ちゃんの究極のエゴですが、その利己的行動の呪縛から自分を解きはなってくれるのも、またみんくちゃんなのです。「みんくを守る」と誓った叶花ちゃん。しかし本当は、叶花ちゃんの方がみんくちゃんに守られているのかもしれません…。
今回のお話は、第１１話で出てきた「休止（スリープ）」のオプションを使って話を作ってみたいと思ったら、いつのまにかこんな話になってしまったという…。まあ、そんなわけです。またしても叶花ちゃんが主人公…。こりゃあ、「Ｍｉｎｋの図書館」っていうのは看板に偽りアリかもですねえ？ やはり「叶花の図書館」なのかしら？（笑）。
さてさて、よくよく考えたら、夏コミまで１ヶ月切ってるんですよねえ。まだ夏コミ小説１行も書いてません（汗）。それなのに２本も執筆しようなどという絶対無理な目標を掲げていたりして…。ああ、本当に大丈夫なのかあ？（爆）