Ｍｉｎｋの図書館♪（バックナンバーその１１）
「おもい違い」（２００１年１月６日ＵＰ）
「こんにちは〜〜〜〜。今日も遊びに来たよ〜〜〜ん」
真帆子と叶花は、バードミュージックに遊びに来た。
「あ、こんにちは〜♪」
Ｍｉｎｋは、真帆子と叶花が来たので、はしゃいで出迎えた。
「おい、真帆子。いっつも遊びに来てるけど、宿題はやらなくていいのか？」
モトハルは、兄らしく真帆子をたしなめた。
「留年ギリギリのモッくんに言われたくないよ〜」
「な、なんだとっ？ それに、モッくんはやめろっていつも言ってるだろっ！」
いつもの漫才のような兄妹ゲンカを、呆れてみつめる叶花とＭｉｎｋ。
「はあ、あの二人も、相変わらずだよね〜」
「そ、そうだね…」
さて、叶花と真帆子とＭｉｎｋは、いつもどおり楽しそうにおしゃべりしていた。そんな３人を、モトハルは遠くからにこにこしながら見ていた。
「相変わらず仲良しだな。」
そして、モトハルは、ふと思った。
「そういえば、白石さん、今日もいないな…」
モトハルは、いつも気になっていた。「白石さん」が真帆子や叶花たちと一緒に学校の中庭で弁当を食べている風景や、登下校を一緒にしている姿はしょっちゅうみかける。しかし、事務所や楽屋に訪ねてくるのは、いつも真帆子と叶花だけで、「白石さん」の姿を見たことが無いような気がするのだ。
「なあ、真帆子…」
モトハルは、楽しそうにしゃべっているＭｉｎｋや叶花としゃべっていた真帆子を、呼び寄せて陰に連れて行った。
「なあに？ モッくん？」
「…モッくんはやめろって言ってるだろ…。さて、ええと…」
「なあに？」
真帆子が怪訝そうな顔で尋ねる。
「その…、白石さん、今日も来てない…よな…？」
「…え？ あ、ああ、そういえばそうだね〜」
ちょっとドキっとしたが、真帆子は、いつものようにしらばっくれる。しかしさらにモトハルは問うてくる。
「白石さんって、なんかいっつもいないよな…」
「え……」
真帆子は、突然みんくが居ない件を突っ込まれたので、どぎまぎしてしまった。
「なあ、真帆子、どうして白石さんって、いつも居ないんだろ…？」
「え？ …その…偶然じゃないの…？」
「今日は一体どうしたんだい？」
「ええと、それは…」
「知ってるんだろ？ 言ってみろよ！」
モトハルが結構真剣に問うので、ますます真帆子は焦った。
「えっと、確か、頭痛がするとか言っていたような…」
「頭痛か…」
モトハルは、真剣に考え込んだ。真帆子は、何かを思いついたような顔になると、にやにやしながら尋ねた。
「はは〜〜〜ん、モッくん？ もしかして、あの子のこと、気になってるの？」
モトハルは、思いもかけないことを言われて、ドキンとなった。
「そ、そ、そんなんじゃないって…」
「ふ〜〜〜〜〜〜ん、モッくん、顔が赤いよ〜〜〜〜〜」
「ち、ち、違うって言ってるだろぅっ！！！？？？ それにモッくんはやめろ…！！」
「だってえ、そんなにみんくがいないこと気にするなんて、おかしいんじゃないのぉ〜〜〜〜？？？？ もしかして…？ きゃ〜〜〜〜〜〜☆」
にやにやしながらモトハルを思いっきりひやかす真帆子。
「う、うるさいっ！！！ オ、オレはトイレに行ってくるっ！！！」
モトハルは思いっきり真っ赤になって、事務所から飛び出して行ってしまった。
ビルの廊下で、モトハルはドキドキを沈めようとしていた。
「…くそ、真帆子の奴…。そ、そんなんじゃないって言ってるのに…」
しかし、モトハルの頭には、「白石さん」の顔がさっきからうかんで消えなかった。
「…し、白石さんは、真帆子の友達じゃないか…。妹の友達に、そんなヨコシマな想いを抱いたりするなんて、絶対いけないことだっ…」
どうやらモトハルは何かを勘違いしているようだ。
「そうだよ…。白石さんは妹の友達なんだ…。可愛い妹の可愛い友達じゃないか…そ、そうだよな…あんな可愛い子を…、し、白石さんって、良く考えたら、……おもいっきり可愛くないか？？…？……なんかこう、抱きしめちゃいたいくらい…」
思わず頭に浮かんだ「可愛い」という言葉から、モトハルはさらに自滅方向に思考が進んで行った。モトハルは悶えるように絶叫した。
「な、な、なんてハレンチなことをオレは考えているんだあっ！！！？？？？ 妹の友達を好きになるとかデェトしちゃうとか抱きしめちゃうとかキスをしちゃうとかそしてそして………ぐああっ？？？ そんなヨコシマな考えは…だぁ〜〜〜〜〜！！！！！ 白石さんがいくら可愛いからって、可愛いからって、オレは、オレはあ〜〜〜〜〜〜！！！！？？？？」
やはりモトハルは何かを勘違いしているらしい…。連鎖反応で、どんどんモトハルの思考はわけのわからないものになっていった。
「鳥海さんっ、一体何をもだえているんですかあ？」
「はあううっ！！！？？？？」
甘ったるい声で突然話し掛けられ、モトハルは飛びのいた。そこには、事務所へやってきた有香がいた。
「ゆ、有香…？」
「誰が可愛いんですかあ？」
有香に突っ込まれて、モトハルは真っ赤になった。
「な、なんでもないっ…！！」
そんなモトハルの様子に、有香はなぜかぼ〜〜〜っとなった。
「もしかしてあたしのことですかあ？ や〜〜〜〜ん、有香、こまっちゃう〜〜〜〜〜」
勝手に舞い上がりながら、有香はるんるん気分で事務所に入っていった。有香も何か勘違いしているらしい。
「…げ、元気なやつ…」
有香に呆れながら、モトハルは少し落ちつきを取り戻していた。
「元気…か…。でも、白石さんは…」
モトハルは、あまり会うことのない「白石さん」を思い浮かべていた…。
「…白石さん、今日は頭痛か…。この前はたしか御腹が痛いとかいうことだったよな…。その前はたしか、熱があったとか…」
真帆子や叶花の言う「白石さんの来ない理由」を思い浮かべると、実はかなり異常なくらいに「体調を崩していることが多い」ことに、モトハルは気がついた。
「そういえば、白石さんって、いつもおとなしいよな…。いつもうつむきがちで、声も小さいし、顔もなんか赤いし、あまりしゃべらないし…。真帆子や森山さんと比べて、随分おとなしすぎるよな…。元気が無いっていうか…」
もちろん、それは大好きなモトハルの前でみんくがドキドキしっぱなしになってもじもじしてしまうからなのであるが、まさか「白石さん」が自分に恋しているなどとは思いもしないモトハルは、そんなことに気がつくはずもなかった。
「それに、よく、ぼ〜〜〜〜〜〜っとして、うわごとのように何かつぶやいているし…」
それは、みんくが「違う世界」へイッちゃっているからなのだが…。
「そういえば、真帆子っていつも、白石さんのこと“ほっとけないのよね”ってつぶやいてるな…。もしかして…」
モトハルは、険しい顔になった。
「白石さんって、すごく体が弱いんじゃないか…？ それで、いつも病気がちで、ここにも遊びにも来られなくて…真帆子がほっとけないのもわかる気がするよな…」
モトハルの勘違いだらけの思考は、もうここまで来ると止まらなかった。
「…友達ともあんまし遊べなくて、学校から帰ったら疲れきって、一人寂しく寝込んでいることが多いのかな…。可哀想に…」
モトハルは、「一人寂しく家で寝込んでいる病弱な白石さん」の姿を勝手に想像して、思わず涙が出てきた。
「…あれ…？ 先輩…。ここに居たんですか…？？？」
話しかけてきたのは、Ｍｉｎｋだった。モトハルがいつまでも戻ってこないので気になったＭｉｎｋは、探しに来たのだ。モトハルが涙をこぼしているのをみて、Ｍｉｎｋはビックリした。
「…せ、先輩…？ ど、どうしたんですか？？？」
「…え…？」
「だって、先輩、泣いてるじゃないですか…？？？」
モトハルが「泣いて」いるので、Ｍｉｎｋはオロオロし出した。
「そういえば、さっき叫んでいたみたいですし…。一体どうしたんですか？」
「あ、えと、それは…」
説明しようとしたとき、モトハルのアタマの中には、「白石さん」の姿が次々と浮かんできてしまった。
「あうっ…」
自分の頭が「白石さん」で一杯になり、モトハルは思いっきり真っ赤になった。
「せ、先輩…？」
「そ、その…、な、なんでもない…」
モトハルは、あわてて涙をふき取ると、後ろを向いてしまった。
「で、でも、先輩、泣いてるじゃないですか…」
Ｍｉｎｋは、モトハルの様子がおかしいので、急に不安になって、モトハルの肩に手をかけた。
「何でも無いって言ってるだろっ！？」
思わずモトハルは、Ｍｉｎｋの手を振り払ってしまった。
「…せんぱ…」
Ｍｉｎｋが思わず涙声になる。モトハルはハッとして、Ｍｉｎｋを振り向く。
「…Ｍｉｎｋ…、その…ご、ごめん…。」
「先輩…あたしたち、運命共同体ですよね……それなのに…隠し事なんて…」
うつむくＭｉｎｋの目から涙がポロポロこぼれる。
「その…、本当になんでもないんだよ…。本当だよ…。ちょっとした個人的なことなんだ…。だから…」
そんなモトハルの言葉が聞こえないのか、Ｍｉｎｋは黙って去ってしまった。
「…だって…、Ｍｉｎｋにこんなことで涙流しているなんて言ったら、恥ずかしいじゃないか…」
「…ひどいよ…。先輩ったら、隠し事だなんて…。何でも話して欲しいのに…」
みんくは、公園のベンチで顔を伏せてめそめそしていた。モトハルにはねつけられたことが、ショックだった。
「…先輩…、泣いてた…。何でもないわけないよ…。先輩の苦しみも悲しみも、みんなわけて欲しいのに…あたしじゃ…先輩の支えになってあげられないのかな…」
みんくがめそめそしている一方、モトハルは歩きながら、ブツブツと呟いて公園の近くまで歩いてきていた。
「…Ｍｉｎｋを泣かせちゃったな…。オレっていつも、あいつに悪いことしてるな…」
しょげながらも、モトハルは、まだ「白石さん」のことが頭から離れなかった。
「あああ…、ど、どうして今日は、白石さんのことばかり気になるんだあ…？ 白石さんは真帆子の、妹の友達じゃないか…。それなのにオレは一体何をハレンチなことを考えてるんだ…？」
モトハルの思考は全然ハレンチでもなんでもないのだが…。相変わらず勘違いしたまま公園まで歩いて来たとき、モトハルは見覚えのある姿をみつけた。
「…あれ？ あれは白石さん…？」
それが確かに「白石さん」だとわかると、モトハルは途端に顔が真っ赤になった。
「…う、こ、こんな時に白石さんが…、ちょ、ちょっとまて…、どうして心臓がこんなにドキドキと…？？？？」
思いっきりどぎまぎしながらも、モトハルは「おや？」と思った。
「…白石さん、なんか、顔を突っ伏して、どうしたんだ…？ 具合が悪いのか？」
みんくを「病弱なおんなのこ」と勘違いしているので、急にモトハルは心配になってきた。
「そういえば今日は頭痛がするとか言って家に帰ったっていうんじゃなかったのか？ なのにまだ制服姿でこんな寒い外に…？ ま、まさか、途中で具合が悪くなって…？」
モトハルは勝手に想像すると、途端に心配になった。
「…ったく、どうして心配させるんだ…！！！？？？？」
モトハルは、みんくのもとに駆け寄った。
「白石さん！？」
突然モトハルがやってきて声をかけたので、みんくは思いっきりびっくりした。
「せ、先輩…？？？」
みんくはみるみるうちに真っ赤になった。Ｍｉｎｋとして会うのは慣れているのに、みんくとして「先輩」の前にいると、どうしてもドキドキしてもじもじしてしまう。
「こんな寒い中、どうしていつまでも外にいるんだっ！？」
モトハルは、思わず大きな声を出した。
「…え？」
「顔が真っ赤じゃないか！！！ 熱があるんじゃないのか…？」
そう言ってモトハルは、熱をはかろうとしてみんくの額に手を当てた。突然「先輩」に触れられたので、みんくはもう、思いっきり舞い上がってしまった。
「せ、せ、先輩が、あたしのおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこにおでこに…∞」
みんくはドキドキでぼ〜〜〜っとなり、顔もますます真っ赤になって熱くなってしまった。当然、額の温度も上がる。
「ほらみろ！！ 少し熱っぽいじゃないか！！ こんななのに、どうしていつまでもこんなところにいるんだっ！！？？？」
モトハルは心配のあまり、みんくを思わず怒鳴った。
「…え？ あ、あたし、なんでもない…」
「なんでもないわけないだろう！？ 顔が真っ赤で、熱っぽくて、それになんだかぼ〜〜〜っとしているじゃないかっ！！ 具合が悪くて歩けなければ、タクシーでもなんでも使って帰らなくちゃダメじゃないかっ！！」
一方的に怒鳴ると、モトハルは、みんくをおんぶしようとした。
「ほら、おぶさるんだ」
「…え？ え？ あたし、歩けますから…」
突然おんぶされそうになって恥ずかしくなったみんくは、あわててモトハルから離れようとしたが、あまりにも慌てていたので、つい足元がよろけて転んでしまった。
「…きゃっ！」
思わずしりもちをついてしまった。みんくは起きあがろうとした。
「痛…！！」
転んだ拍子に結構強くお尻と足を打ってしまったため、痛さでみんくは立てなくなってしまった。
「ほらみろ！！ 歩けないのに、大丈夫なわけないじゃないか…！！！ …ったく、世話のやける…」
モトハルは今度は、直截みんくを抱きかかえた。
「え、え、ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ！！！？？？」
モトハルに思いがけず抱っこされてしまったので、みんくはもう耳まで真っ赤になってしまった。
「せ、先輩が、あたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてるあたしを抱いてる…∞」
みんくが「違う世界」へ行っちゃってる間に、モトハルはみんくを抱っこしながら、家まで運んで行った。中学生のおんなのこを抱っこして歩いている姿は、嫌でも人の目に付いてしまう。道行く人の視線を感じつつ、モトハルは恥ずかしい思いをしながらみんくの家に向かった。
「…ったく、世話がやける…」
こうして、モトハルはみんくを家まで抱っこして連れて来た。
「あ、あの…、本当にあたし、大丈夫ですから…。それに、先輩、お仕事ありますよね…」
みんくは、大好きな「先輩」に家まで来られて、もう心臓がバクバクしていた。
「いや、ちゃんと御両親に君を渡すまでは、ほっとけないよ。」
モトハルは、みんくを下ろすと、玄関のベルを押した。
「ごめんくださ〜〜〜い」
しかし、家の中はシーンとしていた。ベルを数回鳴らしても、誰も出てこない。
「あ、そういえば、今日はママも出かけたんだった…。夜まで帰らないと思います…。」
みんくはそう言うと、カギを出して玄関のドアを開けた。
「じゃあ、先輩、送ってくださってありがとうございました…」
そう言って、みんくは中へ入っていった。靴を脱いで家に上がろうと段差に足をかけたとき、さっき転んだ痛みが、急に足に走った。
「痛あっ…！！！」
みんくは、よろけて、ドターンと転んでしまった。
「…一体どうしたっ！？」
みんくの転んだ音をききつけたモトハルは、慌てて家に入っていった。玄関でみんくが倒れているのをみて、モトハルは真っ青になった。
「し、白石さんっ！！！」
モトハルは慌ててみんくのもとにかけより、みんくを抱き起こした。
「あ、その、ちょっと転んだだけですから…」
モトハルに抱きかかえられて、みんくはまたしてもドキドキになってしまった。
「だめだ。今日はもうオレは白石さんをほっとけないよ…。御両親が帰ってくるまで、オレがついている。」
モトハルは、ふたたびみんくを抱きかかえた。
「さあ、部屋はどこだい？」
「ええええ？？？？？ あ、あの、ほ、本当にあたし大丈夫ですから…」
いくらなんでもモトハルに自分の部屋に入られるなんて、みんくはあまりにも恥ずかしくてもがいた。
「だめだ。病弱な白石さんをこのままほってはおけない。遠慮せず、今日は黙ってオレの言うとおりにしなさい！！」
モトハルは、厳しい表情でみんくを睨んだ。真剣な目でみつめられて、みんくはもはや逆らえなかった。
「…で、部屋はどこ？」
「…その…、階段を上って、突き当たりです…」
「さあ、部屋にいくぞ」
モトハルはみんくを抱いたまま２階へ上がっていった。
特に病気でもないのに、みんくは寝間着に着替えて、ベッドに寝ることになってしまった。
「…さあ、着替えできたか？」
モトハルが部屋の外から尋ねる。
「あ、はい、着替えました。でも、あたしもう、本当に大丈夫ですから…」
「だめだ。さっきからオレに心配かけまいとそんなことを言ってるんだろうけれど、重症なんだぞ。このまま一人にはできない。」
そう言って、モトハルはみんくの部屋に入っていった。
「あ、あたしの部屋に、せ、先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が先輩が…∞」
部屋に入られたうえに、寝間着姿まで見られて、みんくはもう恥ずかしさと言いようの無い甘ったるさでアタマがぼーーーっとなってしまった。その様子は、本当に重病のような感じだった。
モトハルは、そんな状態のみんくを抱きかかえると、ベッドに寝かせた。みんくはもう最高に心臓がバクバクいってしまった。頭にグラグラと血が上り、呼吸も荒くなり、視線も定まらなくなり、何がなんだかわからない状態になってしまった。おかげで、みんくはますます重病人に見えてしまう。
「…白石さん…」
「…せ、先輩…？？」
「…白石さんは、いつもこうやって寂しい思いをしてるのかい…？」
「え…？」
みんくは、モトハルの言葉の意味がわからなかった。すると突然とても優しい表情になってモトハルはみんくの顔をベッドサイドから覗きこんだ。優しい顔でみつめられて、みんくはただただ真っ赤になってもじもじするだけだった。
「…真帆子や森山さんはしょっちゅう事務所に来るのに、白石さんがいつも来ないから、気になってたんだ…」
思いもかけないことを突っ込まれ、みんくは途端に焦った。
「…い、いや、そ、それは…」
しかし、そんな焦るみんくに構わず、モトハルは話しつづける。
「…白石さん、いつだったかうちのＭｉｎｋの大ファンだって言ってくれたよね…？」
「…は、はい…」
「…だから、事務所に来てくれれば会わせてあげたいと思ってたのに、ほとんど事務所とかに来なかっただろう？ 真帆子や森山さんはいつも来るのに、白石さんはいつもいない…。」
核心を突っ込まれたみんくは、もう、気が気でなかった。
（し、正体が、バレちゃう…？）
みんくが泣きそうな顔になったとき、モトハルはそんなみんくを慈しむように、みんくの前髪をなでた。みんくの顔がさらに紅潮した。
「…でも、その理由は、白石さんが病弱だからだったんだね…。」
こうやってベッドに横たわってもじもじしながら顔を赤くしてぼ〜〜〜っとなっているみんくは、本当に病弱にみえた。しかし、当のみんくはモトハルの言っていることがよく理解できなかった。
「…え？ あたしが病弱…？？？」
「いつもこうやって、遊びにも行けず、家では寝込んでいるんだね…。…かわいそうに…」
「あの、先輩、それは違…」
モトハルの言っていることがどこか勘違いであることに気付いたみんくは、弁解しようとした。しかしみんくの言葉は、もはや状況に酔っているモトハルの耳には入らなかった。
「…うちの真帆子はあんなに元気なのに、白石さんだけがどうしてこんなにかわいそうなんだ…。真帆子と同じに、白石さんが元気に飛びまわれればいいのにな…」
勝手な想像力で「白石さん」を「病弱な薄幸の少女」だと思いこんでしまったモトハルは、途端に涙を流し始めた。
（…先輩…、何か勘違いしてる…？）
みんくは、どうにか誤解を解かなければと思ったが、もはや自分の思いこみに完全に酔いまくったモトハルは、声をもらして泣き始めた。
「うううっ…。…お、オレが、替われるものなら替わってやりたい…。白石さん、かわいそうに…」
勘違いのまま嗚咽するモトハルに、みんくはもうどう声をかければ良いか、わからなかった。
（…な、なんか、このままじゃまずくないかなぁ…？）
みんくがオロオロしていると、突然モトハルは、明るい表情になって、顔をパッと上げた。
「そうだ！！！！」
「…？？？」
「白石さん！！！ オレ、白石さんが元気になれるように、最高のプレゼントを用意するよ！！！」
「ぷ、プレゼン…ト…？」
愛しい「先輩」がプレゼントをくれるというので、みんくはとたんに胸が甘酸っぱい想いに満たされた。
「ふふふ♪ 何だと思う？」
「…な、なんです…か…？」
顔を真っ赤にしてみんくは尋ねる。モトハルは、自信満々な表情でやさしく言った。
「白石さん、うちのＭｉｎｋのファンだっていうから…。だから、うちのＭｉｎｋを特別に連れてきて、白石さんだけにＭｉｎｋのライブをプレゼントするよ！！」
それを聞いたみんくは、一瞬キョトンとしたが、次の瞬間、思いっきり慌てて叫んだ。
「えええええ！！！？？？？」
「どうだい？ 嬉しいだろう？」
いくらなんでも、そんなことになってはまずいとみんく思った。コピーみんくは、いまいち信頼がおけない。下手をすると正体がバレるかもしれないと思うと、みんくは焦りまくった。
「…で、でもっ…。そんなこと…、Ｍｉｎｋちゃんに申し訳ないです…」
「いいから！！ 白石さんは遠慮しなくていい！！ オレはバードミュージックの社長代理だ。何がなんでもＭｉｎｋに来るよう命令するから。それに、Ｍｉｎｋは良い子だから、きっと白石さんのために喜んで来てくれるよ。あの子は、そういうやさしい子だから。」
モトハルに目の前で「（Ｍｉｎｋは）良い子」だとか「やさしい」と褒められ、みんくはまたしても顔が真っ赤になってしまった。
「…だから、白石さん、絶対元気になるんだぞ。病気なんかに負けないで…」
そう言いながら、無意識のうちにモトハルは、みんくの手を両手で握り締めていた。
「せ、先輩があたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手をあたしの手を…∞」
愛しい「先輩」の手を、そして体温を直に感じ取り、みんくはまたしてもドキドキしてしまった。
「…はっ！！！！ ご、ごめんっ…！！！」
思わず自分が大胆なことをしていることに気がつき、モトハルは真っ赤になって手を離した。
「…ご、ごめん…。ハレンチなことを、つい…」
モトハルがすまなそうに頭をかくので、みんくは慌てて弁解した。
「い、いえ、その、あたし、嫌じゃないし…」
みんくもまた、つい大胆な事を口走ってしまったことに気がつき、さらに慌てふためいた。
「…先輩…」
「…し、白石さん…」
思わず沈黙の中で、二人ともお互いの目をついみつめてしまい、そのまま硬直してしまった。
「…し、白石さん…、お、オレ…」
モトハルは無意識のうちに、横たわっているみんくに向かって顔を近づけて行った。もはやみんくは、微動だにできなかった。
（…せ、先輩が…、先輩が……）
その時だった。
「みんく、いるんでしょ〜〜〜〜〜〜っ！！！？？？？ 遊ぼ〜〜〜〜〜♪」
沈黙を打ち破って突然部屋に人が入ってきた。それは、真帆子と叶花だった。
「ぎょえっ！！！？？？ …も、モッくん？？？？」
ベッドに寝ているみんくにモトハルが顔を近づけているというシーンを目の当たりにした真帆子は、思わず飛びのいた。叶花も、あまりのシーンに呆然となっていた。
「はあううっっっ！！！？？？？ ま、真帆子ぉっ！！！！？？？？？」
モトハルは、思いっきり絶叫して飛びあがった。
「…も、モッくんってば、何やってるのよお？？？」
「な、何…って？？？」
「みんくとふたりっきりで、一体…？」
「ご、ご、誤解だあっ…。…な、何もオレはしてないっ！！！ 決してハレンチなことなんてしてないぞおっ！！！」
「…じゃあ、この状況はどう説明するんですかあ…？」
叶花も真っ青になってつぶやく。ベッドに寝ているおんなのこに顔を近づけているなんていう状況は、どう考えてもあやしいとしか言いようがない。
「…お、オレは、白石さんの看病をしていただけだあっ！！！」
「…か、看病？？？」
「そうだ、看病だ。後ろ暗いことなど、何も無いっ…！」
「………」
「な、なんだその目つきはっ！？ 本当に何もしてないぞ！ ただ、ちょっと…」
「…ただ…？」
「と、とにかく、お前たちが来たんだったら、もう安心だっ…！！！ お、オレは仕事に戻るからなっ…！！ 真帆子、只今からお前を白石さんの専属ナースに任命するっ！！ だから、責任もって看病するようにっ！！！ じゃ、じゃあなっ！！！」
思いっきり慌てふためきながら、モトハルは部屋を飛び出して行った。
「…は、はあ？？？」
呆然となる真帆子と叶花。そして数秒後、とつぜん「ガタゴトガタッ」というものすごい音がして、「ぎゃあっ！！！」というモトハルの叫びが聞こえた。
「…せ、先輩っ！！！？？？」
みんくは思わず飛び起きて、階段のところに行ってみた。モトハルが階段から転げ落ちていた。
「…だ、大丈夫ですかっ！！？？」
「こ、転んだだけだっ。白石さんは寝てなくちゃだめだろぅ！！？？？ じゃあ、お大事になっ！！！」
モトハルはびっこを引きながら、逃げるように家から出ていってしまった。
「…先輩、大丈夫かな…？」
みんくが不安げにつぶやきながら部屋に戻ってくると、そこにはにやにやしながら真帆子と叶花が立っていた。
「…はっ…？」
みんくは思わず、真っ赤になった。
「ふっふっふ…。みんく〜〜？ モッくんと一体何をやらかしたのかなあ〜〜〜？？？」
「鳥海先輩とどんないいことがあったのかなあ〜〜〜〜？？？」
にやけながらみんくの顔を覗きこむ二人。
「…そ、その…、別になにも…」
「なんか、すっごくいい雰囲気だったよねえ？ いや〜〜〜〜ん♪」
「しかも先輩ってば、みんくに随分と顔を近づけてなかったっけ〜〜〜？？」
もはや興味本意で興奮している二人。みんくは恥ずかしさで真っ赤になりながら叫んだ。
「だからあ！！！！ 違うって言ってるでしょぉ〜〜〜〜〜！！！！！」
みんくは、にやけてひやかす二人をなだめながら、どうにか状況を説明した。
「…ふうん、モッくんってば、しょうがないね〜。みんくが病弱なわけないじゃん」
「みんくを勝手に病人に仕立てるってあたり、なんか鳥海先輩って、その手の文学作品の読みすぎじゃないのぉ〜？」
二人とも呆れかえっていた。
「でも、どうして何でもないってこと、説明しないのよ？」
「…だって、顔が赤い理由は先輩が原因だなんて、恥ずかしくて言えないよ…」
みんくはそう言って、耳まで真っ赤になってしまった。
「でも、その状況のどさくさにまぎれて、二人っきりの甘い時間を過ごすなんて、モッくんもみんくも、やるぅ〜〜〜〜♪」
「スミにおけないよね〜〜〜〜♪ 大胆だよね〜〜〜♪ みんく、おめでと〜〜〜〜♪」
「妹のこのあたしが許しちゃうよ〜〜〜♪ みんく、お幸せに〜〜〜♪」
二人はすぐにそこに話を戻してしまう。二人の「いぢわる」に、みんくはもう恥ずかしくて泣きたいくらいだった。
そこへ、みんくの携帯に電話がかかってきた。モトハルからだった。
「はい…？」
「Ｍｉｎｋ？ オレだ」
「…あ、先輩？？？」
「実は、明日一つ急な仕事をして欲しいんだ」
「な、何ですか？」
「実は、オレの知ってる病気がちのおんなのこがいるんだけど…。真帆子と森山さんのお友達なんだけどさ…」
それは自分のことだと、みんくはわかった。
「…その子、お前のファンなんだ。だけど、病気がちだから、なかなか会わせてあげられなくて…。だから、明日はその子の家に、オレと一緒にお見舞いに行ってくれないか？」
「…え、でも…」
「頼む。１銭にもならない仕事だけど。でも、かわいそうな子なんだ。このオレの一生のお願いだ」
モトハルが熱心な声で頼むので、みんくは断りきれなかった。
「…先輩がそこまでおっしゃるなら、お引き受けします。」
「ありがとう！！ きっとＭｉｎｋならわかってくれると思ってたよ。じゃあ、明日一度事務所にきてくれ！！」
そう言って電話は切れた。
「…というわけなの。どうしよう…？」
みんくは、真帆子と叶花に状況を説明し、悩んでしまった。
「う〜〜〜〜ん、確かに、コピーみんくは、いまいち行動が保証できない時があるからねえ…」
「…ふぅ、叶花の技術も大したことないんだねえ…」
「な、なにおぅ！！！？？？」
「みんくとＭｉｎｋが同じ場面に存在する…。そんなことできるのかなあ？」
真帆子がぶつぶつ呟いていると、叶花はとたんにピンと来たようだった。
「ふっふっふ♪ ま〜かして♪」
叶花は目をキラーンとさせながら自信満々に言う。
「真帆子、あんたがみんくになればいいよ。」
「は、はあ…？」
「ＷＡＮＮＡ−ＢＥは別にみんくだけしか変身できないわけじゃないしね。真帆子がＷＡＮＮＡ−ＢＥを使ってみんくに変身して、明日先輩が来る時にそのベッドに寝てればいいんだよ」
「そうか。あたしがＷＡＮＮＡ−ＢＥを使うのか。面白そうじゃん」
みんくはそれでも心配そうだった。
「大丈夫かなあ…？」
「大丈夫よっ。みんくになりきって、モッくんとラブラブになれるようにうまくやってあげるわよん♪ むふふふふ♪ まっかせなさ〜い♪」
冷やかすように真帆子が言う。
「ちょ、ちょっと、真帆子ちゃん、先輩の前で変なことしないでぇ〜〜」
みんくは真帆子が何かしでかしはしないか、ますます心配になってしまった。
次の日の放課後、学校が終わると、３人はみんくの家に集まった。
「ねえ、叶花ちゃん。ＷＡＮＮＡ−ＢＥって、２人同時に変身なんてできるの？」
「むっふっふ♪ ＷＡＮＮＡ−ＢＥのプログラムは常に改造研究してるんだよん☆ ま〜〜〜〜〜かして♪」
叶花は、パソコンをカタカタいじった。
「じゃあ、まず真帆子が変身して」
「えっと、みんく、どうすんの？」
「携帯のここを押して、こうやって…」
みんくは手馴れた手つきで携帯を操作すると、真帆子に手渡した。
「このボタンを押しながら、起動パスワード“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ ＳＴＡＮＤ ＢＹ、起動”を唱えるんだよ」
「よっしゃ♪ それでは…、ＷＡＮＮＡ−ＢＥ ＳＴＡＮＤ ＢＹっ、起動！！！」
起動パスワードを叫ぶと、真帆子の身体が一瞬まぶしい光りに包まれ、次の瞬間、そこにはもう一人のみんくが立っていた。
「わあ、すご〜〜〜い♪ 本当にあたしそっくり〜♪」
「さあ、次はみんく、あんたの番だよ。」
叶花はパソコンをまた操作した。
「はい、いいよ、変身しな」
「うん。それじゃ、ＷＡＮＮＡ−ＢＥ ＳＴＡＮＤ ＢＹっ、起動！！！」
みんくも続けて、一瞬のうちにＭｉｎｋの姿に変身していた。
「じゃあ、Ｍｉｎｋ。あたしはここで真帆子と一緒に待機しているから、先輩と一緒に来てね」
「うん。わかった。それじゃっ！！」
Ｍｉｎｋは、モトハルの待つ事務所へ行ってしまった。
「さて、じゃあ、あたしはみんくの替わりにここに寝て…っと」
真帆子は、みんくのベッドに横になった。
「モッくんってば、みんくに昨日、本当に何してたんだろうねえ？ あやしいよ〜」
真帆子は天井をみつめながらにやにやしていた。
「…でも、鳥海先輩の気持ち、わからないでもないな…」
「はあ？」
「だってさ…」
叶花は、ベッドサイドから真帆子をみつめるとつぶやいた。
「こうやってみんくみたいな可愛いおんなのこがベッドで、それも「病弱」だと勘違いして、寝てるの見てたら、なんだかすごくいとおしくなっちゃうよ…」
叶花の目は心なしか潤んでいた。
「そんなもんかなあ…？ でもモッくんってば、本当にみんくのこと、どう思ってるのかなあ？」
真帆子は、みんくになった自分を切なげにみつめる叶花の様子には気付かず、そんなことをぶつぶつとつぶやいてた。
一方のＭｉｎｋは、事務所にやってきた。
「お、Ｍｉｎｋ、来てくれてありがとう。今日はすまない。」
「いえ。先輩の頼みですから…」
モトハルに“ありがとう”と言われ、Ｍｉｎｋはちょっと胸がときめいた。
「…昨日はごめんな…」
「…え？」
「昨日オレが泣いてた理由…。実は、今日お見舞いに行くおんなのこのことが可哀想で、思わず涙が出ちゃったんだ」
「そ、そうだったんですか…？」
愛しいモトハルが、自分のことを、それも「白石みんく」の事を気にかけ、泣いてくれた…。そう考えると、Ｍｉｎｋはなんとも言えない想いでいっぱいになった。
（…それに…、先輩、昨日のＭｉｎｋのことも、気にかけててくれたんだ…）
大好きな「先輩」が「みんく」と「Ｍｉｎｋ」の両方を気にかけててくれた。もう、Ｍｉｎｋは、幸せな気分倍増だった。
「白石さんってさ…なんかさ、こう、ほっとけない感じの子なんだ。いつもおとなしくて、もじもじしてる感じでさ…。そのあたりがどっか可愛い感じなんだ…」
そう言って、少しモトハルは顔が赤くなった。Ｍｉｎｋは、モトハルに“可愛い”といわれて、思わず耳まで真っ赤になった。
「そして、Ｍｉｎｋのファンなんだ」
「あ、あたしのファンですか…？」
「ああ。それに、偶然なんだけど、名前が“白石みんく”っていうんだ。Ｍｉｎｋと名前が同じだな…」
「あ、そ、そうですか？ 偶然ですねっ」
「まあ、そんなわけで、今日はその子を元気づけてやりたいって思うんだ。まあ、仕事らしくない個人的なお願いですまないけど…、どうかよろしく頼む」
モトハルは、Ｍｉｎｋにペコリと頭を下げた。
「…いえ、いいんです…だって…先輩のためなら、あたし…」
Ｍｉｎｋは、そこまで言いかけて、次の言葉が出てこなかった。
「よし、行くぞ。バイク用意して待ってるから、すぐに降りてきて」
モトハルは、さっさと下に降りて行ってしまった。Ｍｉｎｋは、どことなくモトハルにはぐらかされたような気分で、ちょっとショックだった。
バイクで、モトハルとＭｉｎｋは、みんくの家の前についた。
「あ、鳥海先輩にＭｉｎｋ。いらっしゃ〜い」
叶花がバイクの音を聞きつけて、みんくの家から出てきた。
「やあ、森山さん。君も来てたのか。」
「はい。」
「白石さんは、寝てるのかな？」
「あ、はい。ベッドに横になってますよ」
「じゃあ、Ｍｉｎｋ。白石さんの部屋に行こう」
３人は、みんくの家に入っていった。
「おじゃましま〜す。」
自分の家に入るのに「おじゃまします」という挨拶は何か変な感じだとＭｉｎｋは思った。
「やあ、白石さん。今日は気分はどうかな？」
みんくの部屋に入ると、モトハルはみんくの姿の真帆子に尋ねた。
「大丈夫ですぅ」
真帆子は、みんくの口調を真似しようとして言ったが、あんまし似てない。
「…あれ？ 白石さん、声が変じゃないか？」
モトハルが心配そうに尋ねる。声は真帆子のままなのである。
「…え、えと、ちょっと喉の調子が…」
真帆子はしきりに誤魔化した。
「大丈夫かい？ こんな日にお見舞いに押しかけて、迷惑じゃなかったかい…？」
モトハルは、やさしい目でみんくな真帆子の顔を見下ろした。
（…え…？）
目と目があってしまい、真帆子は一瞬「ドキっ」となった。
「そうそう、今日はね、約束通り、Ｍｉｎｋを連れてきたんだ。Ｍｉｎｋ、こっちが昨日話した、白石さんだ」
モトハルは、みんくな真帆子にＭｉｎｋを紹介した。
「…あっ、そ、その、こ、こんにちは…。Ｍｉｎｋですっ。」
自分に向かって自己紹介するなんて、なんだかすっごく間抜けだと思いながら、Ｍｉｎｋはしどろもどろで「自己紹介」した。
「あ、Ｍｉｎｋさんですね。あたしファンなんです。うれし〜♪ きゃ〜♪」
真帆子はにっこりしてはしゃぎながら答えた。なんか、真帆子の話し方は、わざとらしくて、ぜんぜん普段のみんくに全く似てなかった。
「…そうだな。Ｍｉｎｋ、何か歌ってあげてくれないか？」
「え、えっと、な、何がいいですか…？」
「じゃあ、Ｖｅｌｖｅｔ Ａｎｇｅｌぅ〜♪」
真帆子は「病弱な白石さん」という設定が理解できていないようだ。みんくな真帆子の方が元気がよくて、Ｍｉｎｋの方がずっとオドオドしている。
（あ〜あ、真帆子の大根役者…）
叶花は呆れて物も言えなかった。だが、モトハルは、「白石さん」が喜んでいるので、とても満足してしまい、御機嫌で、この不自然さには気がつかなかった
「わ〜♪ 今日はＭｉｎｋちゃんにお会いできて嬉しかったですぅ。ありがとうございますぅ♪」
みんくな真帆子は、「病人」とも思えないはしゃぎっぷりだった。
「あ、ありがとうございます。喜んでもらえて、うれしいです。」
Ｍｉｎｋは、モジモジしながら、みんくな真帆子に向かって答えた。
「あの、白石さん、元気になれると、いいですね」
そう言って、Ｍｉｎｋはにこっとした。
「さて、白石さん、これ以上は体にさわるかな？ そろそろ横になったほうがいいな。」
モトハルは、みんくな真帆子をベッドに寝かしつけた。
「…どうだい、白石さん、元気になれたかい…？」
モトハルは、「白石さん」をやさしい眼差しで見下ろした。
「……？」
モトハルに眼をみつめられた真帆子は、またドキドキしてきた。
（…ど、どうして…？ モッくんの顔なんて、見なれているはずなのに…）
モトハルの、「白石さん」をみつめる慈しむような目つき。その眼差しに瞳を射抜かれた真帆子は、急に動悸が激しくなってきた。
（モッくん…）
一方、そんな優しいモトハルの後姿を見て、ＭｉｎｋはＭｉｎｋで甘酸っぱい想いに満たされ、頭がぼ〜〜〜っとなってしまった。
（先輩が…、「あたし」を看病してくれてる…。あたしを、あたしを…）
部屋に流れる、妙な「二人っきりの世界」…。叶花は呆れたように突っ込んだ。
「あの〜？ お楽しみのところ、申し訳無いんですが〜？」
叶花のツッコミに、急にモトハルとＭｉｎｋは、顔が真っ赤になった。
「お、おいっ！！ 別に楽しんでるわけじゃあないぞおっ！！」
「そうですよぅ！ 先輩は看病してるだけでぇ！！」
叶花は、にやにやしながら、Ｍｉｎｋに突っ込む。
「…Ｍｉｎｋ、なんであんたがそこで焦るわけ？」
叶花の核心をついたツッコミに、Ｍｉｎｋの顔はまたしても耳まで真っ赤になる。
「…と、とにかくっ！！！ そろそろおいとまするよっ！！！ じゃ、じゃあな、白石さん、お大事にっ！！ さあ、Ｍｉｎｋ、行くぞっ！！」
「は、はい、先輩…。白石さん、じゃあねっ！！」
焦りまくりながら、モトハルとＭｉｎｋは、逃げ出すように去っていった。
「うふふ♪ あの二人、からかうとおもしろ〜い。ね、真帆子？」
叶花が真帆子の方をみると、真帆子は真帆子で、顔を赤くしてぼ〜〜〜っとなっていた。
「どうしたの？ 真帆子？」
「…モッくん…、すごくやさしい眼だったの…」
「…はあ？」
「…モッくんって、みんく相手にあんなにやさしい眼をするんだ…。あんなに、あたたかくて、そしてやさしくて…」
「真帆子？ ちょっと、聴いてる？」
「あんな眼、あたし初めて見た…。あたし、ドキドキしちゃった…」
「…あんた…？ 大丈夫…？」
「モッくん、いつのまにかあたしの知らない人になっていっちゃうんだ…。あたしだけの知ってたお兄ちゃんが、消えて行くみたい…。お兄ちゃんがどんどん遠くに行っちゃうみたいだよ…。お兄ちゃん…」
そうつぶやくと、真帆子の眼から涙がこぼれた。そんな真帆子に、叶花は一体どう言葉をかけてよいのか、わからなかった。
「今日はありがとうな、Ｍｉｎｋ。オレのわがままを聞いてくれて…」
モトハルは、事務所に戻ると、Ｍｉｎｋにねぎらいの言葉をかけた。
「いえ、どうしたしまして」
「可愛い子だろ？ あんな子が妹に欲しい気もするよな。」
モトハルに「可愛い」と言われ、Ｍｉｎｋはまた動悸がしてきた。
（…先輩…。さっき「あたし」を看病してくれる後姿、すごく優しかった…。「あたし」のこと、どう思っているのかな…？）
Ｍｉｎｋは、気になって気になって、たまらなくなった。
「先輩…」
「…ん？」
「…あ、あの子の、白石さんのこと…、そ、その…」
「白石さんがどうかしたの？」
「ど、どうして、そんなに気にかけるん…ですか…？」
もじもじしながら、勇気を出して問うＭｉｎｋ。
「ど、どうして…って…」
モトハルは、思いっきり真っ赤になった。
「…な、なんでもない…。Ｍｉｎｋには関係のないことだっ！」
焦ってしまったモトハルは、思わずキツイ口調で怒鳴ってしまった。
「…か、関係のないこと…ですか…？」
吐き捨てるように怒鳴られたＭｉｎｋは、途端に悲しくなった。
「…い、いや、その…」
「…あたし、関係無いんですね…。先輩のこと、もっと…知りたいのに…」
Ｍｉｎｋは、黙って事務所を飛び出して行ってしまった。
「Ｍｉｎｋっ！？」
モトハルは青くなって追いかけたが、Ｍｉｎｋの姿は、消えるように見えなくなってしまった。
「…Ｍｉｎｋ…。また、ケンカしちゃったな…」
モトハルは、力なくつぶやいた。
「…でも、どうして、オレは、あんなに、白石さんのこと…」
次々と浮かぶのは、「白石さん」の顔だけだった。モトハルは、自分の気持ちがよくわからなくなり、頭を抱えてしまうのだった。
その夜、なかなか寝つけないみんくは、ベッドの中で物思いにふけっていた。
「…また、先輩とケンカしちゃった…。」
みんくは、モトハルの態度が気になって仕方がなかった。
「…先輩…。どうしてあたしのこと、あんなに優しく看病してくれたの…？ あたしが妹みたいだから…？ それとも…？」
モトハルの、「先輩」の本当の気持ちが知りたいのに…。みんくは、もどかしくて苦しい想いに襲われ、頭を抱えた。
「それに、「Ｍｉｎｋ」にも、本当の気持ち、話してくれなかった…。あたしたち、運命共同体だって言ってくれたのに…。それなのに、あたしは先輩のこと、まだまだ何にも知らないんだね…。そして、先輩も、あたしの秘密、全然知らないんだ…。あたしたち、お互いに隠し事ばかりしてる…」
今まで運命共同体だとばかり思っていた自分たち。しかし、それがまやかしの幻想ではないのか…？ そう考えると、みんくは悲しくなった。
「…いっそのこと、あたしが「Ｍｉｎｋ」だってこと、言えればいいのに…。全部告白してしまえればいいのに…。そして、あたしの本当の気持ち…先輩に言える勇気が欲しいのに…」
みんくは、布団を頭からかぶると、うめくように泣きながら、つぶやくのだった。
「先輩…あたしがＭｉｎｋです…いつも傍にいます…それは…先輩が好きだからです…大好き…大好きです、先輩…」
モトハルに言える勇気の出ない言葉を、みんくは泣きながら、懸命につぶやくのだった。
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新年最初かつ新世紀最初の小説をアップしてみました。いかがでしょうか？
…しかし、今回の小説も、またしても「大問題作」ですね…。叶花ちゃんが「アレ」なのはいつものことですが（爆）、それに加えて真帆子ちゃん、そして、なんと今回はモッくんに思いっきりぶっ壊れていただきました。なんだか、「こんなのモッくんじゃないっ！」って怒られてしまうかも？ ご、ごめんなさい〜〜〜！！！ しかも、シチュエーションが「紙一重」ですね。一歩間違ったらまずいかも？ う〜ん、いいのかなあ？（汗）
今回のお話、思いっきり甘くせつないお話しを書いてみたいなあって思って書いたんですが、何を血迷ったか、こんなに甘ったるいお話になってしまいました。もう、べとべとの甘ったるさですので、糖尿病にならないよう御注意ください（謎爆）。しかも、最後はみんくちゃん泣いちゃうし…。例えて言うならば、砂糖を入れすぎたコーヒーだけど、やはりどこかに苦味が…って、ああっ！ もはや言ってることがわけわからないですね…。こんなに弁解しまくってますが、突き詰めて言うと、結局はこのお話、私の「シュミ」なのかもしれません（笑）。みんくちゃんを勝手に「病弱な少女」に仕立てちゃってますし…。う〜みゅ…。
ただ、今までの「電脳少女☆Ｍｉｎｋ」って、Ｍｉｎｋちゃんとモッくんのお話は描かれてきたのですが、みんくちゃんとモッくんについては、ほとんど描かれないままにお話がすすんできました。２月号の時点で「芸能界編終了」とのことですので、今後はみんくちゃんとモッくんに関する恋のお話も描かれていくのでしょうけれど、なんか待ちきれなくてこういうお話を書いちゃいました（爆）。みんくちゃん、まだモッくんに告白する勇気が無いみたいですけど、いつか勇気を出して「大好きです」って言える日が来るといいですね。頑張れ、みんくちゃん！！ モッくんはモッくんで、「白石さん」のことをどう思っているのかも、今後興味あるところですね。
あと、今回、有香ちゃんを出して見ました。私の小説に有香ちゃんが出てくるのは２回目ですが、まだまだチョイ役のレベルに止まってしまってますね。そのうち、有香ちゃんも本格的に活躍させてみたいですね〜。