「ママの腕の中」（２００１年５月１９日ＵＰ）「今日は、有香の仕事だったな…。まったく、あいつも、そろそろ一人で仕事に行けってんだ。Ｍｉｎｋの方は手がかからないというのに…。いつまでも困ったちゃんな奴だ…。アイドルの自覚が無いっていうか、覚悟が無いっていうか…」
ブツブツ言いながら、モトハルは学校近くの道をあるいていた。
「ん？ あの女の人…？」
モトハルは、前方に女の人がうずくまっているのをみつけた。
「どうしたんだ？ なんか、妙だな…」
モトハルは、女の人の元にかけよっていった。
「あの、どうかなさいましたか？」
女の人は、赤ちゃんを抱えていたが、その顔は苦痛にゆがんでいた。
「ど、どうしたんですかっ！？？？？」
女の人はモトハルに気がつくと、赤ちゃんをモトハルに必死で差し出した。
「こ、この子をお願いします…」
「ええっ？？ い、一体どうしたんです？？？ 気をしっかり…」
「く、苦し……」
モトハルに赤ちゃんを渡してほっとしたのか、お母さんは気を失ってしまった。
「ちょっと！！！ 気をしっかり！！！！」
モトハルは必死でお母さんを介抱したが、気を失ったままだ。赤ちゃんを抱えているので、このままではうまく身動きがとれない。幸い赤ちゃんはスヤスヤと安らかに眠っているのだが…。モトハルは周囲を見渡した。人通りの少ない路地なので、なかなか人が通りかからない。少しすると、一人のおじさんが通りかかった。
「す、すみません！！！」
モトハルは応援を求めた。
「どうなさったんです？」
「この女性が倒れていて…、赤ちゃんまで抱えてて、一体どうしたらいいのか…」
「落ちついて！ まずは救急車を呼びましょう。どこかに公衆電話は…」
「そ、そうでしたね。じゃあ、オレの携帯を…」
モトハルは、通行人のおじさんに自分の携帯を手渡して、１１９番してもらった。しばらくすると、やがて救急車がやってきた。救急隊員がモトハルに尋ねる。
「病人の状態は？ 一体なぜ倒れたんです？」
「それが、一体何故倒れたのか、オレもぜんぜんわからなくて…」
救急隊員たちは、お母さんの脈をみたり、呼吸を確かめたりしていた。
「どうやら、心臓が止まったとか、呼吸がキケンだとか、そういうことでは無いようだが…。とにかく、空いている病院に搬送します。あなた、一緒に付き添っていただけますか？」
救急隊員は、通行人のおじさんに同行を求め、救急車に一緒に乗りこんでもらった。
「あの、オレはどうすれば…？」
「まずはお母さんの命が大切だから、とにかくお母さんを搬送するよ。お母さんの病気がわからないから、急を要するからね。君はそこで赤ちゃんと一緒にちょっと待っていてくれないか？ お母さんが落ちつき次第、この方にすぐに迎えに来てもらうから。じゃ！」
「えっ！！？？ ちょ、ちょっと、じゃあ、オレはいつまでもここにいなくちゃならないのかよぉ〜？？？」
そんなモトハルの叫びが聞えないのか、救急車は慌てたように、去っていってしまった。
「ど、どぉしろっていうんだよ…？」
モトハルは途方にくれてしまった。赤ちゃんは、お母さんの事情など知らず、すやすやと寝息をたてている。
「やれやれ、人の気もしらないで…」
モトハルは、ため息をつきながら、じっとたたずんでいた。
「このままただ抱いてるってわけにもいかないよなあ…。ひもじがったらどうするんだ？ おしっこやウンチの時は一体どうすれば…？」
モトハルは困り果ててしまった。
「赤ちゃんなんて、オレの得意分野じゃないんだよなあ…。真帆子が赤ちゃんの時は、オレもまだガキだったからなあ…」
両手で抱えている赤ちゃんは、モトハルにとっては決して重たくはなかったが、正直モトハルは困ってしまった。
すやすやと眠っていた赤ちゃんは、いつのまにか目を覚ましていた。見知らぬ人に抱かれて、なんだか落ち着かないのか、キョロキョロと周囲を見回している。
「あちゃ〜。起きちまった…。」
母親の姿が見えないのか、だんだん赤ちゃんは不安げな表情を示し、グズってきた。
「お、おいおい…。な、泣くんじゃないぞぉ〜〜〜」
赤ちゃんの表情はだんだん不安さが増していった。
「えっと…。たしかこ〜ゆ〜時は…。真帆子が小さかった頃は、おふくろがあれをやってたっけ…。ええと、イナイイナイバア〜〜〜〜♪」
モトハルは、赤ちゃんを精一杯あやしてみせた。
「キャッキャッ♪」
赤ちゃんは、モトハルのあやしがウケたのか、機嫌よく笑い出した。
「ふぅ…」
赤ちゃんが機嫌よくなったので、モトハルは一安心した。
「う〜ん…。有香の仕事があるんだが…。この付近から動くわけにはいかないよなあ…」
仕方がないので、モトハルは、有香の携帯に電話をかけた。
「ちょっと〜〜〜、鳥海さ〜〜〜〜ん！！ さっぱり来てくれないから、有香、心細かったの〜〜〜〜〜。早く来て〜〜〜〜〜」
有香は相変わらず甘えたような声で電話に出た。
「…すまん、有香。今日はちょっとのっぴきならない用事ができた。今日は一人で仕事をこなしてくれ」
「え、ええええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜！！！！！？？？？？ そ、そんなあ！！！ 有香、ど〜〜〜〜したらいいのかわかんな〜〜〜〜〜い！！ や〜〜〜〜〜〜ん、有香、困っちゃうぅ〜〜〜〜〜〜！！！！！！」
有香はモトハルの言葉を聞くと、大慌てで涙声で訴えた。
「いいかげんにしろ！ いつまでもデビューしたての新人じゃないんだから、自分の仕事は自分でちゃんとこなせ！！」
「鳥海さんだって、マネージャーの仕事、こなしてないじゃないですかあ！！」
「…いや、それは…」
「だいたい、鳥海さんの用事って何なんですかあ？？」
モトハルは、ツッこまれてとたんに凍ってしまった。
（…い、言えねえ…。赤ちゃん抱えてるなんて…）
モトハルは焦りまくった。
「人に言えないようなことなんですかあ？？？」
「そ、それは…。と、とにかくっ！！ 極めて機密事項だから言うわけにはいかないっ！！」
そうやってモトハルが大声で会話しているものだから、赤ちゃんはだんだんぐずってきた。
「ふ、ふえ…、ふええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜ん！！！！」
赤ちゃんはついに泣き出した。
「…お、おいおいっ！！！ な、泣くなあっっっ！！！」
モトハルがつい怒鳴ったものだから赤ちゃんはさらに激しく泣き出した。
「うぎゃああ〜〜〜〜〜〜！！！！！！」
その泣き声は、有香にも電話を通じて聞こえてしまった。
「な、な、なぜ鳥海さんが赤ちゃんと一緒にいるんですかあ？」
「こ、これには事情が…」
「じ、事情って、い、一体ど〜〜〜ゆ〜〜〜〜ことですかあっ？？？」
「と、とにかく、取り込み中につき、オレは失礼するっ！！！ オレがいなくても仕事はするよ〜〜〜〜にっ！！！」
「えええ？ ちょ、ちょっと、鳥海さあ〜〜〜〜〜〜〜〜ん！！！！？？？」
有香の叫びも聞こえてるのか聞こえてないのか、モトハルは言い捨てると電話を切ってしまった。
赤ちゃんはさっきからギャアギャアワンワンと大声で泣いている。
「お〜〜〜い、イナイイナイバア〜〜〜〜♪」
必死であやすモトハルだったが、赤ちゃんは激しく泣いて泣き止まない。
「な、泣き止んでくれよぉ〜〜〜〜〜〜〜〜！！！！」
「…ん？ 赤ちゃんかしら？」
下校中のみんくは、どこからともなく赤ちゃんの泣き声のようなわめき声を聞いた。
「近くのおうちで泣いてるのね…」
みんくは自分の家の方向に向かって歩いて行ったが、どんどん泣き声が近くなっていくようだった。
ある交差点を曲がったとき、その泣き声は、前方にいる男性の抱いている赤ちゃんのものとわかった。その男性は必死にあやしているようだった。
「あらあら、あんなに泣いちゃって…。パパも大変ね…☆」
一見微笑ましい光景に、みんくもクスっと笑いながら近づいて行った。
「…あ、あれ？？？ あの男の人…」
どうも見覚えのあるその後姿…。
「こらこら、泣き止んでくれよぉ〜〜〜〜」
その声は、まぎれもなくモトハルだった。
（…せ、先輩…？？？？？？？？）
みんくは、それがモトハルだと気付いて、驚愕してしまった。
（…せ、先輩が、どうして赤ちゃんを…？？？）
みんくは、モトハルが赤ちゃんを抱いているという事実を受け入れられなかった。
（ま、まさか、先輩って子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？子持ち？…∞）
みんくは勝手に思いこんで、ショックのあまりガーンとなった。
「…ん？？？ し、白石さん？？？」
モトハルは、みんくに気がついた。
「ちょうどよかった。助けてくれ。」
モトハルは懇願するような表情でみんくに近づいていった。
「せ、先輩…。この赤ちゃん……、まさか……、先輩の赤ちゃん…？？？」
みんくは半泣き状態でモトハルに尋ねた。
「…へ…？？？」
わけがわからず、キョトンとするモトハル。
「…せ、先輩のお子さんだったんですね…？？？ 先輩が子持ちだなんて、あたし…あたし…、知らなかった…」
もう、涙眼で訴えるように問い詰めるみんくに、モトハルは慌てて弁解する。
「だあああ！！！ ち、ちがうって！！ こ、これは…」
モトハルは、事の顛末を話した。
「…というわけで、急に預けられちゃったもんだから、この場所も動けないし、オレってば、赤ちゃんのあやし方も知らないし…困っててさ…」
焦りまくるモトハルの腕の中で、赤ちゃんは相変わらずビービー泣いている。
（そ、そうだよね。あたしったら、なに考えてるんだろ…？？）
みんくは自分の一方的な勘違いが恥ずかしくなり、もじもじしていた。
「ねえ、ちょっと、白石さん、あやしてみてくれないかなあ…？」
「えええ？ あ、あたしが…？」
戸惑うみんくに、モトハルは赤ちゃんを無理やり手渡す。
「ちょ、ちょっと、先輩っ…？？？？？」
モトハルに赤ちゃんを押しつけられて、みんくは戸惑うばかりだ。
「ええと、どうすればよかったかなあ…？、ええと、あ〜〜、よしよし〜〜〜〜」
みんくは戸惑いながらも赤ちゃんをあやした。すると、なんと、だんだん赤ちゃんが泣きやんでいった。
「うみゅ〜〜。キャッキャッ！！」
みんくのあやしが利いたのか、だんだん赤ちゃんは機嫌よくなっていった。
「きゃ〜〜。笑った笑った♪ 可愛い〜♪」
みんくも赤ちゃんをあやしながら、無邪気に喜んでいる。
「へ〜。やっぱり、こういうことは、女の子だよな〜」
モトハルも感心してみている。
「あの、先輩。」
「ん？」
「こんなところじゃ何ですし、どこか座れるところに行きませんか？」
「そうしたいんだけど、ここを離れちゃったら、ママと連絡が取れなくなっちゃうんだよなぁ…」
「そうなんですか…。それは、困りましたね…」
赤ちゃんは泣き止んだものの、こんどは二人で途方に暮れてしまうモトハルとみんくだった。
「…う〜…、う〜〜〜…」
赤ちゃんがみんくの顔を見上げて、何かを訴えるかのように、声を出している。
「あれ〜？ どうしたのかな〜？」
みんくはにっこり笑って、赤ちゃんに話し掛ける。
「う〜〜、ま〜ま、ま〜ま〜…！！」
赤ちゃんはそうつぶやくと、みんくの顔の方に向かって手を伸ばしてくる。
「あはは…、あたしはママじゃないよ〜〜〜☆」
みんくはにこにこしながら、赤ちゃんが伸ばした手をにぎにぎする。
「ふ〜ん、こうしてみてると、白石さん、本当のママみたいだね。」
「…え…？ あたしが…ですか……？？？」
「だって、赤ちゃんあやすの上手いし、きっといいママに将来なれるよ。」
「…え？ なんか想像できないなあ…。あたしがママに…？」
「そりゃあ、そうだろう？ 白石さんだって、いつか誰かのお嫁さんになるんだろうし」
何気なく言ったモトハルの言葉だったが、その「お嫁さん」という言葉を聞いた途端、みんくはドキンとなってしまった。
「お、お嫁さん…？ あたしが…？」
「白石さんは可愛いから、きっとすてきなお嫁さんになれるぞ〜。ははは」
みんくにはお構いなしに何気なく語るモトハル。しかし、その言葉は、みんくのドキドキをさらに強くした。
（あ、あたしも、いつか、お嫁さんに…………？？？）
すっかりみんくはドキドキになってしまった。みんくはちらっとモトハルの顔をみた。モトハルはみんくのドキドキした様子なぞ気づかない様子で、にこにこしている。そんなモトハルの顔を見た瞬間、みんくは一気に耳まで真っ赤になった。
（…い、いつか、あたしも、先輩のお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんにお嫁さんに…∞）
違う世界へイッてしまったみんくにはおかまいなしに、赤ちゃんは手を伸ばしてつぶやく。
「ま〜ま、ま〜ま〜」
赤ちゃんのつぶやきは何気ないのだが、その「ま〜ま〜」という発音に反応して、ますますみんくの心臓はバクバク言ってしまった。
（…な、なんだか、こうしていると、先輩とあたしって、パパとママみたいじゃないかしら…？？？？）
勝手に一人で思いこみ、勝手に舞い上がるみんく。
（き、きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜！！！！！！！ あたしったら、なんてこと考えているのかしら……？？？？？ 先輩とあたしがパパとママだなんて、それじゃまるで夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦……∞）
もう、地に全く足のついていないみんくは、すっかりぼーーーっとなってしまった。
「…白石さん、白石さんってば…」
さっきからモトハルが呼んでいる声に、なかなか気づかないみんく。
「白石さんっ！！！」
モトハルのやや苛立った怒鳴り声を聞いて、とたんにみんくはハッと我に帰った。
「…は、はいっ？？？？？」
「はいじゃないよ…。さっきから赤ちゃんぐずっているのに、ぼーっとしてるんだもんなあ…」
半ば呆れたように言うモトハル。見ると、赤ちゃんはぐずぐず言っている。
「ご、ごめんなさい…」
みんくは、消え入るような声で謝ると、赤ちゃんを再びあやした。
「あれれれれ〜？ どうしたのかな〜？ さあ、よしよし〜☆」
おどけながらあやすみんくだったが、赤ちゃんは、ますますぐずぐずし出した。
「どうしたのかな…？ 全然笑ってくれない…。具合でも悪いのかな…」
みんくは困ってしまった。
「う〜う〜…」
赤ちゃんは、ぐずった声を上げながら、指をしゃぶるような動作をした。
「先輩。もしかして、この子、お腹がすいているのかなあ？」
「え？ そうなのか？」
「指しゃぶっているから、たぶん、そうじゃないかなって思うんです。」
「じゃあ、どっかでミルクでも買ってこないと…」
「あたしが買ってきますから、赤ちゃん見ててください」
しかし、赤ちゃんをモトハルに渡そうとすると、とたんに赤ちゃんのぐずりが酷くなった。
「やっぱり白石さんじゃないとだめだなあ…」
「困りましたね…。先輩がここから離れるわけにはいかないし…」
「う〜ん、すると、こればっかりは、ママが戻ってこないとどうしようもないなあ…」
二人とも考えこんでしまった。
「…きゃっ！？」
突然みんくが、ビックリしたような声をあげた。
「…ど、どうした？」
「や、やだ〜。この子ったら、あたしのおっぱい触るなんて、もぉ〜」
みると、赤ちゃんは、ママの胸と勘違いしてか、みんくの胸に手を延ばして、ぽんぽんと半ば叩くようにさわっていた。
「……………！！！！！！？？？？？？」
何気ないシーンだったが、モトハルはそれをみた途端、思いっきり赤面して、硬直してしまった。
「ねえ、先輩、困るよね〜。あたしったら、おっぱいなんて出ないのにね〜」
笑いながらモトハルの方を見ると、モトハルは、みんくの胸元に視線を向けたまま、真っ赤になって固まっていた。
「…………あ…………！！！！！！」
モトハルが赤面している理由にハッとして気付き、みんくもまた、赤面し固まってしまった。
「…あ、あの……うっ……」
みんくは、思いっきり恥ずかしくなって、涙ぐんでしまい、思わずモトハルから目をそらしてしまった。
「し、白石さん…、そ、その、ごめん……」
モトハルは、慌てて、小さい声で謝った。
「…ご、ごめんなさい…。先輩は悪くないです…」
「いや、オレこそ、その……、一瞬でも白石さんを…ハレンチな目で見てしまって、その……」
まだ涙声なみんくに対し、モトハルは、もう、しどろもどろになってひたすら謝る。
「…でも、決していやらしい意味じゃなくて…その…白石さん…何か本当にお母さんみたいで……なんか綺麗だなって思っただけで、決してハレンチな意味では………」
もう、焦る余りわけのわからない言葉を口走るモトハル。その「綺麗」という言葉をきいた瞬間、みんくは再び耳まで真っ赤になってしまった。
「あ、いや、その…」
「…せ、先輩…」
「そ、その、わけのわからないこと言って、ごめん…」
「…あの…あたし…」
真っ赤になりながらもモトハルの方を見上げて目を見て問うみんく。
「……あたし………綺麗…ですか……？？？」
うるうるした瞳で自分の方を見て問うみんくに、モトハルは、もう、頭がパニックになっていた。
「…し、白石さん…」
モトハルは、無意識のうちに、みんくの肩に手をかけていた。
「……あ………………せ、せん、せんぱ……」
＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊ ＊
「ええっと〜〜〜〜〜、おふたりさ〜ん……」
「あのぉ〜、お楽しみのところ、ちょ〜っと申し訳ないんですけどぉ〜…………」
肩を突然ぽんぽんと叩かれて、モトハルとみんくはハッとしてわきをみた。
「……げっ！！！ ま、真帆子ぉっ！！！？？？？」
「か、叶花ちゃんっっっっ！！！！？？？？？？」
真帆子と叶花がそこには冷や汗を流しながら立っていた。思いっきりビックリして飛びあがる二人。
「こ、これは………ご、誤解だあっ！！！！ 決してオレはハレンチなことをして楽しんでいるわけではあっっっ！！！？？？？」
「べ、別に、お楽しみなんかじゃなくてぇっっっ！！！！！」
焦りまくって混乱する２人。
「ふぅ、あんたたち、お取り込み中のところ悪いんだけど…」
「さっきから赤ちゃんがビービー泣いてるよぉ」
呆れたようにみんくの抱いている赤ちゃんを指差す叶花と真帆子。
「うえええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜！！！！！！！」
ハッして気がついてみると、赤ちゃんは思いっきり泣きまくっている。
「こんなに赤ちゃん泣いているのに気付かないなんてね〜。ダメなパパとママだよね〜」
「一体二人っきりで何をしてたんだか………」
白い目でみつめる叶花と真帆子に、モトハルとみんくは真っ赤になって抗議する。
「な、何もしてないぞぉっっ！！！ それに、オレたちがパパとママではないぞっ！！」
「そ、そ〜よっ！！！」
慌てふためいてわめく二人を制するように、真帆子と叶花は言う。
「それはともかく、赤ちゃん、何とかしないといけないんじゃないの…？」
「二人ともついていながら、赤ちゃんほっといてど〜すんの？」
二人の指摘に、みんくは慌て出した。
「そ、そうだった…。この子、お腹が空いているみたいなの…。どうしよう…？？？」
みんくはあわてて赤ちゃんをあたした。
「ああん。ご、ごめんね〜。あ〜よしよし…」
みんくがあやすと、しばらくして赤ちゃんは泣き止んだが、あいかわらずぐずっている。
「ミルク買ってくればいいんじゃないの？」
真帆子が怪訝そうにモトハルにむかって言う。
「でも、事情があって、俺も白石さんもこの場を離れられなかったんだよ」
モトハルは、なぜこの赤ちゃんを預かることになったか、事情を説明した。
「じゃあ、この子の名前どころか、お母さんも誰だかわからないの〜？」
「それで困っているのさ。この場を離れられないしなあ。ミルクも買いに行けない」
「じゃあ、あたしと叶花が買ってきてあげるよ。叶花、行こう？」
「うん。」
真帆子と叶花は、ミルクを買いに走って行った。
２０分くらいして、叶花と真帆子は戻ってきた。
「家で作ってきたよ〜☆ さ、これを飲ませて。」
真帆子は哺乳瓶をみんくに手渡す。
「はい、ごめんね〜。ミルクだよ〜」
みんくがミルクを与えると、赤ちゃんは機嫌よく飲み出した。
「あ、飲んでる飲んでる〜♪ かわい〜♪」
みんくは赤ちゃんの様子をみて、無邪気にはしゃいでいる。
「へ〜。みんくってば、うまいじゃん。本当のママみたいだね〜。」
「え？ そ、そうかな…？？？」
みんくは、叶花に言われて、思わず真っ赤になった。
「それにしても、モッくんも間抜けね〜。せめてその通行人の方の連絡先くらい聞いておけばよかったのに」
真帆子は飽きれたようにモトハルに言う。
「間抜けとはなんだ！ みんな慌てていたんだから仕方ないだろう？ それに、モッくんはやめろ」
でも確かに、このままこの場を離れられないというのも困ったものだ。
そんなモトハルたちの困った事情にはお構いなく、お腹いっぱいになった赤ちゃんは、すっかり御機嫌になって、はしゃいでいた。
「赤ちゃん、かわいいね〜。みんく、あたしにも抱かせてよ〜」
真帆子は興味深そうに赤ちゃんの顔を覗きこんでいる。
「いいよ〜。はい、真帆子ちゃん」
みんくは赤ちゃんを真帆子に手渡す。
「はいはい〜。赤ちゃん、真帆子ママですよ〜〜〜」
真帆子があやしてみせると、何故か赤ちゃんはだんだんぐずってきた。
「う、う〜〜〜〜」
そうしているうちにしまいには泣き出してしまった。
「ふえええええ〜〜〜〜〜〜〜ん！！！！！！」
「あらあら、ちょっとちょっと、どうしたの〜〜〜〜〜？？？？」
慌てる真帆子。そんな様子をみて、叶花は笑い出してしまった。
「あはは！！ あんたはママには向いてないね〜」
「なんですってぇ！？ じゃあ、叶花、あんた抱いてごらんなさいよっ！！」
真帆子は叶花に強引に赤ちゃんを手渡す。
「ええええ？？？？ あ、あたしが？？？？」
「人のこと笑うんだから、あんたがちゃんと泣きやませなさいよっ」
「あ、あたしは無理だって〜。」
赤ちゃんはビービー泣いている。
「う〜ん…。こ〜ゆ〜の苦手なんだよね〜。子育て方法ってネットで検索して解決する問題じゃないしな〜」
叶花は困っていたが、それでも、自分流にあやしてみる。
「え〜と、ほらほら、泣きやめ泣きやめ〜☆ 泣き止んだらネットで面白い画像でもみせてやるぞ〜」
叶花が適当に話しかけて見ると、赤ちゃんは泣き止んだことは泣き止んだ。
「おや？ 泣き止んじゃったね〜。まさか、ネットが見たいわけでもあるまいに…？」
「…叶花？ あんた、意外とうまいじゃん……」
真帆子はちょっとショックを受けているようだ。
「でも、なんか相変わらずぐずってるよ。やっぱりママの手もとのほうがいいんだよ。はい、ママ☆」
そう言って、叶花はみんくに赤ちゃんを渡そうとする。そう言われた途端、みんくは赤くなって慌てた。
「ええええ？ マ、ママって…？」
「ほら、ママはあんたでしょ？ ほれほれ」
叶花はニヤニヤしながらみんくに赤ちゃんを渡す。
「あ、あたしは、ママじゃないよぅ〜」
「でも、ほら、機嫌よくなったじゃん？」
みると確かに、ぐずっていた赤ちゃんは機嫌よくなってキャッキャッとはしゃいでいる。
「やっぱりママの腕の中がいいんだね〜」
「そうだよね〜。ママとパパに可愛がってもらうんだよ〜」
にやにやしながら、みんくとモトハルをからかう叶花と真帆子。
「だ、だからっ、あたしはママじゃ……」
「ま、真帆子ぉっ！！ いいかげんにしろっ！！！」
真っ赤になって抗議する二人。
その時、叶花の携帯電話が鳴った。
「はい、もしもし。あ、はい。さっきお電話差し上げた森山です。ええ。ええ。はい、わかりました。じゃあ、今から行きます。」
叶花は電話を切った。
「さっき、ミルクを買いに行きながら消防署に電話して、事情を説明しておいたんだけど、その答えが来たよ。お母さんは聖華中央病院に運ばれたみたいだね。お母さんの名前は、関川さんという方みたいだよ。」
「あんた、いつの間に電話なんか？」
「ふっふっふ、さっすがあたし♪」
叶花はちょっと得意げになる。
「叶花ちゃん、すご〜い。頼りになる〜♪」
みんくは目を輝かせて感心している。自分を目をキラキラさせてみているみんくを見て、叶花はちょっとドキンとなった。
「え、えっと…、じゃ、じゃあ、お母さんのとこへいこうか…」
ちょっとどもりながら、叶花は大通りへタクシーを捕まえに走って行った。
こうして、聖華中央病院で、赤ちゃんとお母さん、つまり関川さんは再会することができた。さっきいた通行人のおじさんも、まだつきそっていたのだった。お母さんは、どうやら何か悪いものを食べたのだろうか、食中毒だったようで、大した病気ではなかったが、２〜３日入院するようであった。
「申し訳ありません。早く御連絡しに行かなきゃとは思っていたのですがねえ」
通行人のおじさんは、申し訳なさそうに謝っていた。
「いえいえ、お母さんを助けていただいて、ありがとうございます。」
モトハルは丁重にお礼を言った。
「皆さんには本当に御迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした。本当にありがとうございました」
お母さんは、ちょっとやつれていたものの、大丈夫そうであった。
「はい、大切な赤ちゃんですよ。」
みんくは、お母さんに赤ちゃんを渡した。すると、赤ちゃんは途端に、安心したようにスヤスヤ眠り出したではないか。
「へ〜、すご〜い」
「ずっと眠らなかったのに、ママの手元だとこんなにスヤスヤ眠るんだね〜」
みんな感心したように、赤ちゃんとお母さんを見ていた。
「白石さん、今日は迷惑かけてすまなかったね」
病院から出たところで、モトハルはみんくにやさしく話しかけた。
「いいえ。赤ちゃんが無事にママの手元にもどってよかったです…。」
みんくは遠い目をしながら、思い出すようにつぶやく。
「ママってってすごいですね…。赤ちゃん、ママに抱かれた途端、あんなにスヤスヤと安らかに眠っちゃって…。あたしたちが抱いても、決して眠らなかったですものね…」
「でも、白石さんのあやしかたも上手だったよ。白石さんだったら、きっといいママになれるよ。オレが保証する」
「そ、そうですか…？」
みんくはまたしても真っ赤になった。
「…先輩…。あたし…、本当にいいママになれますか…？？？？」
真っ赤な顔で、はにかみながら見上げるみんくに、モトハルはドキンとなった。
「ええと…、そ、その…」
「せ、先輩……」
すっかり二人だけの世界へ行ってしまっているみんくとモトハルを、呆れたように覗きこむ真帆子と叶花。
「ふぅ〜ん。二人とも、お熱いね〜」
「おしあわせにね〜。いいパパとママになるんだよ〜」
二人にからかわれて、思いっきり真っ赤になるみんくとモトハル。
「ま、真帆子ぉっ！！！？？？」
「叶花ちゃんったらあっ！！！」
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ずいぶん久しぶりの作品になってしまいました。４ヶ月ぶりですね…（苦笑）。いかがでしたか？
…って、今回も、今までを上回る「大問題作」かもしれません（爆）。ネタ的にかなりきわどいところまで行っちゃってますし、モトハルは前作に引き続き血迷ってますし、叶花ちゃんは例によってやっぱりアレですし…（滝汗）。だいいち、「電脳少女☆Ｍｉｎｋ」のパロディである必然性がまったく無いですね〜〜〜〜〜〜（那智滝汗）。ご、ごめんなさ〜〜〜〜い！！！！（激爆） 有香にゃんが出ているので、許してください〜〜〜〜〜〜〜（謎爆）
…んで、勘の良い方はお気付きのことと思いますが（笑）、この小説を書くきっかけになったのは、我々の知り合いの女性のＡ氏にお会いした際に、１歳のお子さんを見せていただいたことであります。とても可愛らしかったので、赤ちゃんの出るお話を書いてみたいと思って書いてみたのですが…。しかし、書いてみた結果は、上記の通り、例によって大問題作…（ちゅど〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん！！！！！！！）。ところで、お母さんの力って、すごく偉大だと思います♪ Ａ氏がトイレか何かに行くために、仲間（Ｋ氏）にお子さんを託して行ったら、やがてその子は泣いちゃったのですが、Ａ氏が戻ってきて抱いたら、ピタっと泣き止んだという…。やっぱりお母さんの腕の中がいいんですね〜♪ ほんと、お母さんの力と愛って偉大だなあって痛感させられました。そんなＡ氏への尊敬の意味も込めて贈るつもりで書き出した小説だったんですが…。こんな問題作では、とてもじゃないけど贈れませんね（苦笑）。
ここのところ、小説の更新が少ないと、各方面からお叱りを頂いて申し訳無く思ってます。なかなか新作を生み出すのも困難ですが、頑張ってまた書きたいと思いますので、見捨てないでやってくださいま聖良〜☆