Ｍｉｎｋの図書館♪（ひめさん作バックナンバーその１）
「イミテーション・ダイヤモンド〜偽りの輝き〜」（２０００年９月１０日ＵＰ）
作：ひめさん（「ＨＲＮ Ｈｏｍｅｐａｇｅ」主宰）
「Ｍｉｎｋ、今日もお疲れさん」
モトハルの優しい言葉に、Ｍｉｎｋはニコッと微笑んだ。
「先輩も、お疲れさまでした！」
Ｍｉｎｋのそんな様子に、モトハルも知らずの内に微笑んでいた。が、
「・・・・・」
瞬間モトハルの表情が曇ったのを、Ｍｉｎｋは見逃さなかった。
「先輩・・・ どうしたんですか？」
そう彼女は、モトハルの顔をのぞき込むようにして、尋ねた。
「え！？ あ・・・ なんでもないっ」
モトハルは慌てて首を振ると、急に思い出したかのように、
「そうだ、Ｍｉｎｋっ」
「はい？」
「来週の夕方、４時くらいから、毎日空いてるか？」
Ｍｉｎｋは首をかしげて、
「えっと・・・ どうしてですか？」
「あぁ」
モトハルはカバンから手帳を取り出すと、それに目を落としたまま、
「前から話してた二回目のコンサートのことだけど。今回もイリヤくんがプロデュースしてくれることになったんだ」
「えっ！？ イリヤくん！！？？」
Ｍｉｎｋは、体を乗り出してモトハルに迫ると、そう、声をうわずらせて尋ねた。
「・・・ ああ。それで、来週一週間、夕方だったらイリヤくんスケジュールなんとか取れるから、打ち合わせしよう、って」
「行きますゼッタイに大丈夫です！！！」
目を輝かせて、Ｍｉｎｋはそう答えた。
「そうか、じゃあ来週一週間、夕方はＢ・Ｍの事務所でイリヤくんと・・・ って、おぃ(汗)」
「イリヤとずっと打ち合わせイリヤとずっと打ち合わせイリヤとずっと打ち合わせイリヤとずっと打ち合わせイリヤとずっと打ち合わせ・・・」
もはや、違う世界へ行っている、Ｍｉｎｋだった。
しゅるんっ
「みんくちゃん、今日も一日お疲れさまっ」
「オムくんも、お疲れ〜」
みんくは上機嫌で机に向かうと、鉛筆を取った。
「来週はイリヤくんとずっと打ち合わせ♪」
彼女は机の引き出しをあけてダイアリーを取り出すと、ぱらぱらとページをめくった。
「ちゃんと、忘れないように書いておかないっと！」
そこで、みんくの動きは凍り付いた。
「どうしたのみんくちゃん？」
オムくんが、ぶーん、と、みんくの前へと回ってくる。
「どうしよ〜〜〜〜〜」
みんくの目からは、滝のような涙が流れていた。
「み、みんくちゃん？」
「再来週から期末テストだよぅ。叶花ちゃんと真帆子ちゃんと、テスト勉強することになってたんだよぅ〜〜〜〜〜(涙)」
「ふ〜ん、で、あたしたちに相談しに来た、って訳だ」
次の日の昼休み。いつものように昼ご飯を校庭の片隅で食べながら、みんく、叶花、真帆子の三人は、ヒミツの打ち合わせをしていた。
「そんなの簡単じゃん。仕方ないんじゃないの、約束しちゃったんだから。打ち合わせ出なよ、あたしたちは別にかまわないからさ」
と、叶花はそう言う。
「でもねあたし、最近お仕事忙しくって、あまりお勉強してないの・・・」
うるうる目のみんくはそう答えた。
「そーいえばみんく、最近さ、ちょっと成績悪くなってるんだってね」
と、真帆子。
「やっぱり、学生の本分は勉強だし。ここは涙を飲んでイリヤくんのお話断って、ちゃんと勉強するしかないんじゃないのかな」
「そんなのダメだよ〜。一度オッケーしたのに断っちゃうだなんて、あたし、イリヤくんに嫌われちゃうよぉ」
「みんくったら、そんなことで泣かないでよ。もぅだからこのコは・・・ 真帆子もさ、みんくいじめるんじゃないよ」
「ちょっとぉ、あたしがいつみんくいじめたって言うのよっ」
「今、いじめてたじゃん」
「あたしはみんくのこと思って、そう言ってるんだよっ」
「・・・ でもさぁ真帆子、もしＭｉｎｋがイリヤくんに嫌われちゃったら、もう真帆子もイリヤくんに会う機会、なくなっちゃうよ」
真帆子は腕を組んで、
「う〜ん、それは困るっ」
「真帆子ちゃん・・・(汗)」
「だ・か・ら、何かいいテを考えないとねっ」
叶花はパチッと片目をつむって、そう言った。
「でもさ〜。だったらどうすればいいのかなぁ・・・ そうだ、イリヤのスケジュール、延ばせてもらえないの？」
「ダメみたい・・・ イリヤくん、あたしのために、来週一週間夕方、なんとか空けてくれたみたいなの」
そう言ってみんくは、自分の「イリヤくん、あたしのために」という言葉で、別の世界に行っている。
「まったくこのコは・・・ じゃあさ、夕方はイリヤくんとの打ち合わせに出て、徹夜で勉強するしかないね」
「そんなのダメだよぉ。だってそんなことしたら、イリヤくんとの打ち合わせのとき、寝ちゃうかもしれないもん！」
みんくはぶんぶんと首を振った。
「確かに、仕事忙しいとき、授業中しんどそうだもんね、みんく」
叶花は一人うなずいた。
「へー、そうなんだ」
「そ。たま〜に、うつらうつらしてるときもあるもんね」
「/////」
「そっかぁ・・・ そうだ！」
真帆子は、手をポンと打つと、
「叶花、あんたの作ったコピーみんく、あれに試験勉強させれば？」
「え？ 叶花ちゃん、そんなことできるの！？」
みんくは、すがりつくような瞳を叶花に向けた。
叶花は、ニコッ、と笑みを浮かべると、
「可能だよん。コピーみんくの記憶は、みんく自身があとで共有できるようになってるからね。さっすがあたし」
「わ〜っ、叶花ちゃん、すご〜い！！！！！」
そんな尊敬の眼差しを向けられて、叶花も得意そうだ。
「でもさ〜、あんたのコピーみんく、ちゃんと勉強やってくれるの？」
「なにおぅ？」
「だってさぁ、この前の家庭科の居残りのとき、あれすごかったじゃないの」
「・・・ 成績は保証できないかも」
叶花は、あっさりとそう言った。
「そんなぁ。なんとかしてよ叶花ちゃん〜」
そう、みんくは叶花に泣きついた。
「こればっかりはね・・・」
彼女は腕組みをすると、
「なかなかね、みんくの中身の再現、うまくいかなくって・・・ 姿形は簡単なんだけどね」
真帆子はしばらく、じっとみんくを見つめると、うなずいた。
「？」
首をかしげるみんく。
「まだ、みんくのデータ収集してる最中なんだ。一応、できるところから再現はしてるんだけど・・・」
「やっぱり、あたしの代わりにお勉強は、無理かなぁ」
「まだちょっと難しいかな。それでも前よりは、みんくに近くなったと思うんだけど」
「じゃあさ、コピーみんくにＭｉｎｋになってもらって、イリヤとの打ち合わせに出てもらう、っていう、ってのはどうかな？」
真帆子は首をかしげながら、そう言った。
叶花はポンと手を打って、
「あぁそれいいアイデアじゃん！ みんく、それしかないよ！」
「そんなぁ・・・ せっかくイリヤくんと一緒にお仕事できるチャンスだったのにぃ」
と、みんくはまた、滝のような涙を流している。
「しかたないでしょ。みんくは後でも、イリヤくんと仕事できるんだからいいじゃん」
「うんでもぉ・・・ イリヤくんとお仕事したかったイリヤくんとお仕事したかったイリヤくんとお仕事したかった・・・」
まだまだ諦めきれない、みんくだった。
そして次の週の月曜日。今日の夕方から、打ち合わせが始まる。
「さってと、ここなら誰も見てないよ。ＷＡＮＮＡ−ＢＥ連動オプションで、複製使ってみて」
叶花はきょろきょろと辺りを確認すると、みんくにそう促した。
「オプション？」
「そ。いいからいいから・・・」
みんくはとりあえずうなずくと、ケイタイを手に取った。
「お願いＮＥＴＷＯＲＫ！ ・・・複製、ＷＡＮＮＡ−ＢＥ連動！」
叶花のパソコンが複雑な計算を始めたかと思うと、ぼうっ、と幻影のように、コピーみんくが現れた。
次の瞬間、ケイタイの画面が変わる。
『ＷＡＮＮＡ−ＢＥ ＳＴＡＮＢＹ』『起動』
瞬時に画面が切り替わったかと思うと、目の前のコピーみんくが、コピーＭｉｎｋへと変身した。
「わ〜っ、すご〜い、叶花ちゃん！」
「まぁね。ま、もともと、コピーみんくはＷＡＮＮＡ−ＢＥが作ったものだし、簡単だよ」
とは言うものの、ちょっと得意そうな叶花。
「こんにちはオリジナル。ご命令を・・・」
「ふ〜ん、確かに、この前よりはイイ感じだね」
真帆子はコピーＭｉｎｋをじろじろと見回して、顔を近づけたり下から眺めたりしている。前の、キカイ的な言葉づかいがなくなって、ちょっと見た目にはＭｉｎｋが話しているように見えるではないか。
「まぁね。打ち合わせする、って言うからさ、土曜と日曜とで、いろいろといじったんだ」
「ありがとう叶花ちゃん！」
「へへっ」
「・・・ オリジナル？」
「あっ、ごめんなさい！」
慌ててみんくはコピーＭｉｎｋの方へ向き直ると、
「うんとねっ、あたしの代わりに、イリヤくんとのコンサートの打ち合わせに、出てほしいの。お願いねっ」
「イリヤくんと、打ち合わせ・・・」
コピーＭｉｎｋは、そうつぶやいた。
「そう。お願い」
「イリヤくんとの打ち合わせイリヤくんとの打ち合わせイリヤくんとの打ち合わせイリヤくんとの打ち合わせイリヤくんとの打ち合わせ・・・・・」
「ちょ、ちょっと！？」
突然のコピーＭｉｎｋの変化に、みんくは戸惑ったように叶花を見た。
「ねぇ叶花ちゃん、あたしのコピー、壊れちゃったみたいだよぅ」
真帆子は叶花と顔を見合わせると、
「ふ〜ん、本人にそっくりだね」
「まぁね。とりあえず、分かりやすいところから再現してるからさ」
「・・・ ねぇあたし、こんな変じゃないよぅ」
抗議するみんくに叶花は、
「なに言ってんのよ、ふだんのあんただよ、みんく」
みんくはすがるように真帆子を見たが、彼女は首をすくめるだけだ。
「と、とにかくっ、コピーＭｉｎｋ、イリヤくんの方、お願いね」
「うふっ」
その怪しげな微笑みに、汗を浮かべるみんくだった。
「ねぇ叶花ちゃん、コピーＭｉｎｋ、大丈夫かなぁ・・・」
「みんくったら、さっきからそればっかりだね」
真帆子は呆れたようにそう言った。
「だって、心配なんだもん・・・ あんな調子で大丈夫なのかなぁ・・・」
「まぁ、それは言えてるか(苦笑)」
真帆子はうなずくと、
「ねぇ叶花、なんかさ、今コピーＭｉｎｋが何やってるのか、調べる方法とかないの？」
「あるけど」
叶花は、事も無げにそう答えた。
「えっ、ホント！？」
途端にみんくの目が輝き出す。
「まぁね。コピーＭｉｎｋとＷＡＮＮＡ−ＢＥはつながってるからさ。ＷＡＮＮＡ−ＢＥを通して、コピーＭｉｎｋが見てるもの聞いてるものが、分かるよ」
「えっ！？」
今度は、真帆子の目が輝き出した。
「じゃあさ、コピーＭｉｎｋの見てるイリヤくんが、ＷＡＮＮＡ−ＢＥで見られるの？」
「ま、そういうことになるけど」
「ちょっと叶花、なんでそんな重要なコト先に言ってくれないのよっ！！！」
「だってさ、見てたらコピーＭｉｎｋ使ってる意味ないじゃん。いちおー、勉強しなきゃいけないのにさ」
「あんたはまったく・・・ いい？ 打ち合わせしてるイリヤくんが見れるのよ。そんなチャンス、滅多にないじゃない！！！」
もはや掴みかからんとするばかりの真帆子にさすがの叶花も、
「・・・ 分かったよ。ちょっと待って、今映像出すから・・・」
叶花はそう言うと、勉強机の上のデスクトップパソコンに手を伸ばした。
ぶーん・・・
「ちょっとあんた、そっちのパソコンつけてどうすんのよ」
「これだからシロウトは」
ちっちっ、と叶花は人差し指を振ると、
「ノートパソコンとこっちのデスクトップをつなげてね、ＷＡＮＮＡ−ＢＥの画面をこっちで見られるようにするの。そうした方が見やすいでしょ？」
「そうなんだ？」
そう尋ねる真帆子には答えず、叶花は目にも留まらぬ早さでキーボードを叩き始めた。
ディスプレイ上に窓が開いたかと思うと、一瞬点滅して、そしていつもの見慣れた、ＷＡＮＮＡ−ＢＥの起動画面が窓の中に広がる。
「それで、っと」
叶花はそうつぶやくように言うと、カタカタ、っとまたキーボードを叩いて、そして、Ｅｎｔｅｒを、タン、っと叩いた。
窓が瞬くと、いつもの見慣れた扉が、その中に映った。
「あれ、これ、事務所の扉・・・ なんだ、今Ｂ・Ｍについたんだ」
窓の中に、にゅっ、と手が伸びたかと思うと、扉のノブをつかむ。
がちゃっ
扉が開くと、向こうにモトハルの姿が見えた。
『よっ、Ｍｉ・・・』
がちゃっっっ
「ちょっとぉ、コピーＭｉｎｋったら、なにやってるのぉ」
彼女はいきなり、開けた扉を閉めてしまったのだ。
「ねぇ叶花ちゃんっ」
尋ねられた叶花も、首をかしげている。
その内に、また扉が開いた。
『おぃＭｉｎｋ、どうしたんだよ、急に扉閉めちゃってさ』
扉のすぐ前にコピーＭｉｎｋは立っていたから、画面いっぱいに先輩の顔が広がる。
「先輩・・・」
そう、みんくはつぶやいた。
『先輩がこんな近くに先輩がこんな近くに先輩がこんな近くに先輩がこんな近くに先輩がこんな近くに・・・』
と、ぶつぶつと、そんな声が聞こえてきた。
『Ｍｉｎｋ？』
『先輩先輩先輩先輩先輩・・・』
「ねぇ叶花ちゃん・・・」
みんくはまた、叶花を心配そうに見つめた。
「う〜ん、ちょっと、やりすぎたかな？」
彼女はそう言って、首をかしげた。
「え？ やりすぎたって・・・」
「いやちょっと、係数を大きく取りすぎたかな、って・・・ あとは、経験をあまり加味してなかったのが問題かな・・・」
「？？？？？」
『あれ、Ｍｉｎｋちゃんに鳥海くん。事務所の前で何やってるわけ？』
そんな声で、映像が動いた。
画面いっぱいに、イリヤの姿が広がった。
「イリヤくんだぁ・・・」
みんくの頬に、パッと赤みが差した。
『そうか、このオレを出迎えてくれたんだね。ありがとう！』
映像が少し動き、コピーＭｉｎｋの手が、イリヤに取られているのが見えた。
そしてまた映像が動くと、ニッ、と白い歯を見せているイリヤの顔が映る。
その途端、映像がぶれると事務所前の天井が映り、そして途絶えた。
「叶花ちゃ〜ん、何も見えなくなっちゃったよぉ」
みんくは叶花の肩を持つと、ゆっさゆっさと揺さぶった。
「あんたのプログラム、おかしいんじゃないの？」
とは、真帆子。
「おっかしいなぁ・・・」
叶花はそうつぶやくと、また、目にも留まらぬ早さでキーボードを叩き始めた。数秒ののち、彼女は真帆子の方に視線を戻すと、苦笑した。
「コピーＭｉｎｋ、気絶してるみたい・・・」
真帆子は汗を浮かべながらも、なるほどね、とうなずいた。
「でもさ、こんなんじゃ仕事にならないよ」
「そうねぇ・・・」
叶花は腕を組むと、
「しゃーない、ちょっとプログラム改造するか」
「改造、って・・・ だいじょうぶ？」
みんくは心配そうに、叶花の顔をのぞきこんだ。
「ま、あたしに任せなさい、って」
「その結果がこれじゃない」
真帆子は呆れたかのように、首をすくめた。
「何とでも言ってなさいって・・・ 見てな、コピーＭｉｎｋが気絶してる間に、リモートで、と・・・」
カタカタ、っと、また真帆子はキーボードを叩き始める。
パッと窓が開いて最初にＭｉｎｋを作り出したときのような画面が出てきたかと思うと、もう一つ窓が開いて、見るからに複雑そうな数字の羅列が現れる。
「えっと、先輩への想いは下げないとダメかな・・・ あとは、経験値を上げとけば大丈夫でしょ。恋愛経験、と・・・ 分っかんないなぁ。ここまで
上げとけば、たぶん大丈夫だね」
「せ、先輩への！！？？」
いきなり自分と先輩の話が出てきて、みんくは真っ赤になってしまった。
「先輩とあたしはタレントとマネージャーっていう、ねっ！！！」
大慌ててバタバタと手を動かして否定するみんくだが、叶花は、何を今さら、といった感じで、全く意に介していない。
「これでおっけー。いくよん、転送！」
叶花がＥｎｔｅｒを叩くと画面が瞬き、そして、窓が閉じた。
「おっしまい。これで大丈夫だよん」
『Ｍｉｎｋ、おいＭｉｎｋってば！！！』
パソコンからモトハルの声が聞こえ、コピーＭｉｎｋの画面に再び光が映った。
「お、見えてきた見えてきた」
画面に、モトハルの顔が大映しになる。
「先輩っ」
みんくは画面を見つめ、叶花の方を向いて、そしてもう一度画面に視線を戻した。
『あ、先輩・・・』
次いで画面に、にゅ、っと誰かの腕が映ると、モトハルを押しのけた。
『Ｍｉｎｋちゃん、平気かい？』
イリヤが、こちらをのぞきこんでいる。
『あ、イリヤくん・・・ 大丈夫、心配かけて、ごめんねっ。あたしもう平気だよ』
イリヤはちょっと後ろへ下がると、コピーＭｉｎｋへ向けて手を伸ばした。
『イリヤくんありがと！』
コピーＭｉｎｋはその手を取ると、立ち上がった。
「うん、今度は大丈夫みたいね。さすが、あたし」
叶花は満足そうにうなずいた。
『今回も、イリヤさんのプロデュースでコンサートを行います。また、同じくイリヤさんプロデュースでコンサート直前にシングルを一枚リリースし、これをコンサートのメインに持ってきたいと考えています』
モトハルはここまで言うと、出席者を見回した。
『イリヤさん、何かご意見はありますか？ Ｍｉｎｋも、何かあったら言っていいよ』
『また、イリヤくんと一緒にお仕事できるなんて、あたしすっごくうれしいです！』
コピーＭｉｎｋはそう言って立ち上がると、イリヤの方を向いてにっこりと微笑んだ。イリヤの方も、ニッ、と笑みを返す。
モトハルは何かムッとしながらも、
『オレ、いや、わたしからもよろしくお願いします。この前のコンサートはお陰様で大成功でしたし、今回もそれに劣らない、すばらしいものにしたいと考えています』
『あたし、すばらしいプロデュースしてくれるイリヤくんのために、一生懸命がんばります！』
コピーＭｉｎｋはイリヤのところへゆっくりと歩み寄ると、ペコッとおじぎをした。
イリヤはコピーＭｉｎｋを前にして立ち上がると、
『こちらこそ、オレのプロデュースをあんなに活かしてくれて、感謝しているんだ。ありがとう』
彼はそう言うと、コピーＭｉｎｋの手を取って、そっと口づけをした。
「イリヤイリヤイリヤイリヤイリヤ・・・」
みんくはコピーＭｉｎｋから送られてくる映像を、食い入るように見つめている。
コピーＭｉｎｋは、そんなイリヤに、微笑みを返した。
画面が動くと、向こうのモトハルが映る。
画面の先輩は、どことなく不思議そうな顔をしていた。コピーＭｉｎｋが微笑んだのかこちらへ笑いを返してくるが、その笑いもどことなくぎこちなかった。
『じゃ、とりあえず、今のＭｉｎｋちゃんの状態を知っておきたいな』
『今のあたしの状態って？』
コピーＭｉｎｋは、ちょっと甘えたような声で、そう尋ねた。
『しばらくＭｉｎｋちゃんの歌を生で聴いてなかったからね。キミの声の状態を聴いて、これからどうするかを決めたいと思うんだ』
『分かりました！』
コピーＭｉｎｋはそう答えると、
『どこのスタジオに行くの？』
イリヤはかぶりを振ると、
『いや、ここでいい。バックもいらない。ここで、百億の月を歌ってくれないか』
『ここで？』
コピーＭｉｎｋは首をかしげてそう言った。
『うん。最初百億の月歌ってくれたときもそうだったから、平気だよね。Ｍｉｎｋちゃんの声だけを聞きたいから』
『うん！ あたしの声、よっく聞いてね！！』
イリヤは苦笑すると、
『じゃあ頼むよ』
コピーＭｉｎｋは、小さく息を吸うと、歌い始めた。
『きみの瞳の百億の月 いま小さく脈をうつ メロディー・・・♪』
「ふ〜ん、すごいよ、これは・・・」
真帆子はやや興奮気味で、そう言った。
「ちょっとはあんたのこと、見直したわ」
そう言って彼女は、ポン、と叶花の肩をたたいた。
「とーぜんでしょ、あたしが作ったんだもの・・・」
叶花はそう言いながらも、なぜか首をかしげて、コピーＭｉｎｋの歌を聴いていた。
『パンッ』
歌の一番が終わったとき、手がたたかれた。
コピーＭｉｎｋはうれしそうに、イリヤの元へと駆け寄った。
『ねぇねぇあたし、歌うまくなったかな？ イリヤがいないときも、あたし一生懸命勉強してたんだよ！』
彼女はそう言いながら、イリヤへ腕を絡めた。
みんくはそれを見て、不安そうに叶花に視線を移した。
「ねぇこんなの、あたしじゃないよぉ・・・」
彼女は、真っ赤になってそう言った。なにせイリヤから見れば、Ｍｉｎｋがそんなダイタンなことをやっているように見えるのだから。
「経験値上げすぎたかな(汗) でも、それよりも・・・・・」
叶花も不安そうな表情で、コピーＭｉｎｋから送られくる映像を見つめていた。
イリヤはそんなコピーＭｉｎｋの腕を優しく外すと、
『どうしたの、Ｍｉｎｋちゃん？』
そう尋ねた。
『え？』
イリヤはコピーＭｉｎｋをしばらく見つめると、
『Ｍｉｎｋちゃんがそんな状態じゃ、オレはプロデュースできないよ』
「えっ！？」
『えっ！？』
みんくとコピーＭｉｎｋは、同時にそんな声を出していた。
『そんな、やだなぁイリヤくんったら・・・』
コピーＭｉｎｋはそう笑いながらイリヤの様子をうかがったが、彼の表情は厳しかった。
「今の、イリヤくんにくっついたのが、悪かったのかなっ、それとも、変に甘えてたのが悪かったのかなっ、ねぇねぇ？？？？？」
みんくは画面と隣の二人を、交互に見つめた。
「ううん、たぶん、違うよ・・・」
叶花は画面を見つめて、そうつぶやくように言った。
『ねぇイリヤくん・・・』
そのとき、イリヤの前に人影が割り込んできた。モトハルだった。
『申し訳ありません！！！』
モトハルは深々と頭を下げると、そう叫ぶように言った。
『Ｍｉｎｋの調子が悪いのは、マネージャーたるオレの責任です！！！ Ｍｉｎｋは悪くありません、あと２日、いや、明日まで、時間をください！ きっとＭｉｎｋは体調戻して、イリヤさんに満足してもらえる歌が歌えるはずです！！！』
彼はそう言って、頭を上げることはなかった。
「先輩・・・」
イリヤは、ふぅっ、っと息をはくと、
『Ｍｉｎｋちゃん、マネージャーに心配かけちゃいけないよ』
そう言って、ポン、とコピーＭｉｎｋの肩をたたいた。
『体調悪いんなら、最初からそう言ってくれなきゃ。今度はちゃんと体調戻して、Ｍｉｎｋちゃんのあの輝き、オレに見せて』
呆気に取られているコピーＭｉｎｋを背にイリヤはモトハルへ向かうと、また、その肩をたたいて、
『鳥海くん、今日はとりあえず帰るから、できるだけ早く、Ｍｉｎｋちゃんのホントの歌、聞かせてくれよ』
そう言って彼はＭｉｎｋに向かって手を上げると、事務所を後にした。
「ねぇなんか、大変なことになってるよぉ」
みんくは涙目で、叶花と真帆子に訴えた。
「どうしよーーーーー」
「どうしよう、って、とにかく先輩んとこ行かないと！」
「そんなこと言ったって、こっからモッくんとこは遠いよ！！」
三人は、こうなってはおろおろするだけだった。
そのとき、オムくんがケイタイのなかから飛び出てきた。
「みんくちゃん、ＷＡＮＮＡ−ＢＥで移動だよ！」
「あ、そうだねっ」
みんくは慌ててケイタイを手にすると、高く掲げるように、
「ＷＡＮＮＡ−ＢＥ ＳＴＡＮＤ ＢＹ、起動！！」
光に包まれ、一瞬にしてみんくはＭｉｎｋに変身した。
「Ｍｉｎｋ急いで！ コピーＭｉｎｋにはこっちからパソコン通して連絡しとくから！ 事務所のトイレに！！」
「叶花ちゃんお願いっ」
Ｍｉｎｋはそう言うが早いが、しゅんっ、と、その場から消えた。
モトハルはイリヤを送ると、コピーＭｉｎｋの方へと向き直った。
「Ｍｉｎｋ・・・」
コピーＭｉｎｋは視線を宙に浮かせると、
「あ、先輩、ごめんなさい！ ちょっとあたし、トイレにっ」
そう言って、ペコッと頭を下げると、トイレへと駆け込んだ。
そこには既に、Ｍｉｎｋが待っていた。
「オリジナル、ごめんなさい・・・」
「あたしこそ無茶お願いしちゃってっ！ お疲れさま、後はあたしやるねっ」
「分かりましたオリジナル・・・」
しゅるっ、とコピーＭｉｎｋは消えていった。
「どうやって、先輩に言えばいいんだろ・・・ あれはあたしじゃなかったの、って、そんなこと言えるはずないでしょっ！」
そう言いながら、Ｍｉｎｋはポカポカと頭をたたく。
しかし、ずっとトイレに入っている訳にもいかない。Ｍｉｎｋは意を決して、扉を開いた。
「先輩・・・」
「ごめんＭｉｎｋ！」
Ｍｉｎｋがどう先を続けようか迷っていると、いきなり、モトハルが頭を下げた。
「先輩！？」
「オレ、Ｍｉｎｋがそんな体調悪くしてるだなんて気がつかなくて・・・ マネージャー失格だよな、こんなんじゃ・・・」
モトハルは顔を上げると、心配そうにＭｉｎｋを見つめた。
彼は一歩Ｍｉｎｋへと近づいた。あっという間に、お互いの吐息が感じられるくらいの距離になった。
そして、モトハルの顔が、近づいてくる。
「っ！？」
モトハルの両手が、優しくＭｉｎｋの頭を包んだ。
・・・ せせせせせ先輩、そんな、これってもしかして、きききききききききき、きす！！！！？？？？
・・・ え、えっと、女の子ってこういうとき、目つむるんだっけ？？？？？
こんなときにそんなことを考えながら、それでも自然と目をつむってしまう、みんく。
こつん
二人の額が、合わさる。
「熱はないみたいだ・・・ うん？ ちょっと熱っぽいか？」
彼はＭｉｎｋのすぐ側で、そう独り言のようにつぶやいた。
モトハルはＭｉｎｋから一歩離れると、
「いや、シロウト判断は危険だ。Ｍｉｎｋ、医者行ったか？ オレが連れてこうか？」
・・・・・
みんくは胸がいっぱいになった。
『違うの先輩、あたしは全然元気だよ！！！』
彼女はそう叫びたかった。こんなに心配してくれる先輩を、安心させてあげたかった。でも、それはできない。ここはどうしても、先輩が思っている通り、体調が悪かった、ことにしておかないと・・・
「大丈夫です先輩！ 一晩寝れば！！」
今のみんくには、そう言って、モトハルをとりあえず安心させてあげることしかできなかった。
「そうか、よかった・・・」
モトハルは、心底ホッとしたかのように、そう言った。
「正直驚いたよ、Ｍｉｎｋの歌聞いたときには・・・ 今度から、もっとＭｉｎｋの体調、気にしないとダメだな。体調崩しただけで、あのダイヤモンドの
輝き、なくなっちゃうなんて・・・」
「ダイヤモンド？？」
Ｍｉｎｋはモトハルを見つめた。
「いやっ、とにかく、Ｍｉｎｋの持ってるいいとこが見えなくなってたんだ。イリヤくんも言ってたろ、体調戻してＭｉｎｋの輝きもう一度見せてくれ、っ
て。気づいたんだな、イリヤくんも。さすがだよな」
モトハルはそう言いながら、一瞬、遠くを見るような目をした。
「Ｍｉｎｋ、とにかく今日はもう帰るんだ。今日はゆっくり休んで、明日こそは万全の体調で、イリヤくんにプロデュース、オッケーしてもらわないとな」
「はい！」
Ｍｉｎｋは大きくうなずいた。
「でも驚いたな・・・」
翌日の昼休み。例によって、三人組はランチタイムだ。
「先輩にもイリヤくんにも、コピーＭｉｎｋがどこか違う、って分かっちゃってただなんて・・・」
みんくは、パクっとサンドイッチを口にした。
「そうだよね〜。あたしなんて、コピーＭｉｎｋの歌聞いても、あ、Ｍｉｎｋだ！ としか思わなかったけど・・・ ねぇ叶花」
「そ、そうだね・・・・・」
叶花は真帆子に、なんとなく合わせてしまった。
「・・・・・」
「叶花ちゃん？」
みんくに言われて、彼女は気づかぬうちにみんくを見つめていたことに気づいた。慌てて、視線を逸らす。
「でもさぁ、あんたのプログラムも、自分で言う割にはぜんっぜん、ダメだね」
真帆子は呆れたようにそう言った。
「なにおぅ？」
「叶花ちゃん、真帆子ちゃんってばぁ」
そんな二人の間に、みんくが割って入る。
「今度は、ちゃんとプログラム作りなよっ。歌ってもバレないくらいにさ」
「言われなくても分かってるってば」
叶花はいちごミルクを一口飲むと、まぶしそうにみんくを見た。
「・・・ でもさ、誰にも、みんくの持ってる輝き、マネできないよ・・・」
「えっ、叶花ちゃん、何？」
サンドイッチをほおばりながら、みんくは叶花をのぞきこんだ。
「ううん、なんでもないよ」
叶花は優しい笑顔を、みんくに向けた。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
いかがでしたか？
セイントテールの小説書きとして我々の間でも評価の高いひめさんですが、「Ｍｉｎｋ」においてもそのすばらしい世界は変わりません♪
本来なら、ひめさんのＨＰに載る小説だと思いますが、「うちにはＭｉｎｋのコンテンツが無いので…」と、ひめさんがくださいました。ありがとうござい真帆子〜♪ ひめさんのＨＰも「Ａｎｇｅｌ Ｒｉｎｇ」（Ｍｉｎｋのウェブリング）に参加なさったので、その記念でもあるとのことです。
ご覧の通り、コピーＭｉｎｋちゃんの話です♪ 「成績は保証しない」という初代のコピーみんくちゃんに比べ、本作のコピーは叶花ちゃんの手により進歩しています。普段「違う世界」へイッちゃってるみんくちゃんなのに、いざその姿を観ると「あたし、こんな変じゃないよぅ」と抗議してますね。そのあたりの自覚の無いみんくちゃんがまた可愛いのです♪ プログラミングした叶花ちゃん、実によくみんくちゃんを捉えてます。さすがいつもみんくちゃんを想っている叶花ちゃんですねっ☆（爆）。でも、最後に叶花ちゃん自身が言っている通り、みんくちゃんの持ってる輝きは決して誰にもマネできません。コピーＭｉｎｋは、みんくちゃんの輝きを再現できませんでした。イリヤくんもモッくんも、その輝きが失われていることに敏感に気がついています。そして、このみんくちゃんの「本当の輝き」を１番よく捉えておられるのは、他ならぬ作者のひめさん御自身なのでしょう♪ ひめさんの、みんくちゃんや叶花ちゃんへの愛を感じる作品でした♪
いずれまた、ひめさんのＭｉｎｋ小説が読めることを、読者の一人として期待したいと思います♪
＃夏コミ準備とか「学会の呪文」とか「辞典」の編纂などの理由にかまけて、しばらく私自身の作品をアップしてませんね。う〜〜〜ん、そろそろアップせねば…（苦笑）