Ｍｉｎｋの図書館♪（バックナンバーその４）
「Ｍｉｎｋの２０００年問題」（２０００年４月２２日ＵＰ）
（注：この小説は、１９９９年１２月〜２０００年元旦という舞台設定です）
あたし、森山叶花。自分で言うのもなんだけど、自他共に認めるパソコンマニア。パソコンのことなら、誰にも負けないんだ。
…って思ってたんだけど、ちょっとあたしって自信過剰だったなあって思う事件があったの。聴いてくれる？
ある昼休み、私がパソコン作業をしていると、みんくが話しかけてきた。
「ねえ、叶花ちゃん、最近パソコンばっかりいじってるけど、一体どうしたの？」
みんくがあたしにきいてくる。
「Ｙ２Ｋ対策よ。」
とあたしが答えると、みんくが不思議そうな顔をして聴いてくる。
「Ｙ２Ｋ？ それって、何かのグループ？」
「はあ？」
「ほら、なんか、テクノバンドとか言って…」
何を言ってんだろう、みんくってば…（滝汗）。そこへ真帆子がやってきて突っ込んだ。
「あのね〜。みんく、それは“ＹＭＯ”でしょうが…」
「あ、まちがえちゃった〜☆ さすがは芸能界通の真帆子ちゃんだね。じゃあ、Ｙ２Ｋってな〜に？」
「えと…。ファスナーかなんかを作ってる会社じゃなかったっけ？」
もう、この二人の無知さは聴くに耐えない。
「あんたたち、Ｙ２Ｋもわかんないの？ コンピュータ２０００年問題のことよ。」
そう言うと、真帆子はわかったようだ。
「あ、そっか。２０００年問題ね。Ｙ２Ｋだなんて、オタクな用語を使わないで最初からそう言ってほしいものね。」
「オタク用語だなんて失礼な！ ニュースや新聞を読んでない証拠じゃないの？」
「な、なんですってえ？ パソコンばっかやってて新聞もテレビも縁のないあんたなんかに言われたくはないわよっ！」
「新聞なんかよりもインターネットの方が早くて確実だよん」
…と、あたしと真帆子が言い合っていると、みんくが傍から聴いてきた。
「…ねえねえ…。２０００年問題ってなあに？」
「は、はあ？？？？」
あたしと真帆子は、思わずその場で凍ってしまった。
「…というわけで、年号を下２ケタしか扱わないシステムがあるために２０００年になった時にコンピュータが誤動作する恐れがあることを“２０００年問題”っていうのよ。わかった？」
あたしは疲れた気分で、みんくに教えてやった。
「すご〜〜〜い、叶花ちゃん、天才っ☆」
「知らないのはあんただけだよ…。」
も〜、だからほっとけないのよね、みんくって…。
真帆子は、あたしのパソコンを覗き込みながら言う。
「２０００年問題対策が必要なんて、あんたのパソコン、時代遅れなんじゃないの？」
「ふっ、甘いな、真帆子。たとえシステムのリニューアルとセキュリティを常に行っていたとしても、２０００年問題に万全を期すのがプロのコンピュータマニアっていうものなのよっ！」
常にパソコンに万全を期す姿勢を崩さないなんて、さっすがあたし！
「ところでみんく、ＣＤデビューはもうすぐだよね。レコーディングは順調なの？」
真帆子が問うと、みんくは突然興奮したように言う。
「もう、ばっちしぃ〜〜〜〜。だって、毎日イリヤくんが直接指導してくれるんだも〜〜〜〜〜ん♪ きゃ〜〜〜〜ん☆ イリヤくんがイリヤくんが直接指導直接指導イリヤくんがイリヤくんが直接指導直接指導イリヤくんがイリヤくんが直接指導直接指導イリヤくんがイリヤくんが直接指導直接指導イリヤくんがイリヤくんが直接指導直接指導イリヤくんがイリヤくんが直接指導直接指導…∞」
…ああ、みんくってば、また“違う世界”へイッちゃってるよぉ〜。もう、だからこの子はほっとけない…。
あっと言う間にクリスマスイブ…。この日は、Ｍｉｎｋのファーストシングル「百億の月」の発売日だった。そして、無料ライブの開催が決まっていた。あたしと真帆子も、みんく（Ｍｉｎｋ）が心配だったので、観に行くことにした。
会場は、ものすごい数のファンで埋めつくされていた。
「す、すごい…。こんなに人が…？」
あたしも真帆子も、そのあまりの人の多さに唖然とするばかりだった。あたしの作ったＭｉｎｋが、こんなに世間をフィーバーさせるアイドルになるなんて…。すごい、すごいよ、Ｍｉｎｋ！ そして、さっすがあたし。
会場が興奮状態の中、火に油を注ぐようにＭｉｎｋが登場！
「きゃああ〜〜〜〜！！！ Ｍｉｎｋよぉ〜〜〜〜」
「うぉ〜〜〜〜〜〜、Ｍｉｎｋちゅわ〜〜〜〜〜〜〜ん！！！」
会場は大興奮状態になった。あたしも真帆子も、つられて興奮して「みんく〜〜〜〜〜」と叫んでいた。
「みんなのイブをいまだけＭｉｎｋにちょうだいっ！」
Ｍｉｎｋがそう叫んで曲がスタートした。そして、その時だった。
「え？？？ な、なに？？？？」
あたしのパソコンの画面が、突然ぱああっ、と光った。そして舞台にいるＭｉｎｋの手元から、突然たくさんのきらめく星屑が、客席に向かって降ってきたのだった。
「いや〜〜〜〜〜ん、かわいいっ！！！！」
客席の興奮はピークに達した。Ｍｉｎｋの歌声が、きらめく星屑に乗って流れ出した。
「みんく――――っ！！」
あたしも真帆子も、もうすっかり興奮して声援を送っていた。
「みんく、素敵ぃ！！ 素敵ぃ！！！！」
みんく、素敵だよ。あたしのかけがえのない友達。いつもほっとけないみんくだけど、こんなに素敵で、可愛いアイドルになったんだね…。
「へえ、ってことは、あのオムスビの奴がやった演出なんだね？」
ライブの帰り道、みんくからさっきの星屑の真相をあたしたちは聴いたのだった。あのマスコットキャラのオムが携帯画面から星屑のホログラムを降らせたとのことだった。
「突然携帯が鳴るから、何かと思っちゃったよ〜」
「オムスビの奴、イキなマネするじゃん」
あたしはなんだか、わくわくするのを感じた。もしかして、あの「ＷＡＮＮＡ−ＢＥ」をうまくいじれば、もっと面白い演出ができるのかもしれないなあ。
次の日から、あたしは「ＷＡＮＮＡ−ＢＥ」をいろいろといじりだした。
「むぅ、このソフト、相当複雑なＡＩシステムなんだなあ？」
未来のオモチャとはいえ、かなり高度だ。でも、あたしにわかる部分をいじくれば、なんだかいろいろ出来そうな気はする。
「とは言っても、さすがは２１世紀末のソフトだなあ。やっかいだゾ」
こうやって、あたしは、ＷＡＮＮＡ−ＢＥを少しでも理解しようと、冬休みなのをいいことに、数日部屋にこもって、パソコンばかりいじっていた。
「あれ？ このソフトって…？」
なんか、時計の設定が妙だ。
「変だなあ。このソフト、うまく時計がいじれない…？」
そこへ、パパがやってきた。
「おや？ 叶花や？ パソコンをいじってるのかい？」
パパのほうからあたしの部屋にやってくるなんて珍しい。普段はあたしの方がパパの部屋に行くんだけれど。
「ちょっとね〜。難しいソフトいじっててね〜」
「叶花はパパよりもずっとパソコン上手になっちゃったからなあ。アドバイスしてあげられないのがちょっと悲しいかなあ？」
「んで、どうしたの？ パパ？」
「おっと、そうだそうだ。お友達が来てるんだよ。」
「え？」
あたしが玄関に行くと、みんくがいた。ちょっと半べそ顔だ。
「あら？ みんく、ど〜したの？」
「どーしたのじゃないよ〜。」
みんくの様子がおかしい。あたしたちは私の部屋に行った。
「んで？ なあに？」
「叶花ちゃん、実は、Ｍｉｎｋに変身できないんだよ〜」
みんくが半べそをかきながら言う。
「え？ それは、ひょっとして…」
そういえば、ここ数日、ＷＡＮＮＡ−ＢＥをいじりっぱなしだった。そのせいか？
「えと、ちょっと待ってね。」
あたしは「ＷＡＮＮＡ−ＢＥ」のプログラムの修正を、途中でやめて、プログラムの稼動を復旧させた。
「ごめんごめん。今パソコンをいじってたとこなんだ。これで変身できるよ」
「じゃあ、やってみるね。ＷＡＮＮＡ−ＢＥ ＳＴＡＮＤ ＢＹっ、起動！！！」
みんくの体は光りに包まれたかと思うと、一瞬のうちにＭｉｎｋの姿になっていた。
「…Ｍｉｎｋ…。可愛い…」
あたしは一瞬ぼーーーっとなってＭｉｎｋに見とれていた。
「わーい、変身できたよ、やった〜♪」
Ｍｉｎｋは有頂天になってはしゃぐ。
「ねえ、みんく、この年末にお仕事でもあんの？」
「うん。実はね、ＳＴＶのカウントダウンイベントの生中継に出ろって言われてるんだ〜」
「カウントダウン？ ということは、大晦日の真夜中じゃん？ 大変だね〜。」
「そ〜だよ〜。それで、今日、これから先輩と一緒にＳＴＶ行かなきゃならないんだよ。変身できなくて焦っちゃったよ〜」
Ｍｉｎｋはほっとしたように言う。
「へえ。あたしも心配だから、見にいってあげるよ。」
「ほんとう？ 見に来てくれるの？ うれしい〜♪」
Ｍｉｎｋは大はしゃぎだ。みんくはいつだって、素直に喜んでくれる。そのたびにあたしは嬉しくなる。
ねえＭｉｎｋ、いや、みんく。みんくが喜んでくれるのなら、あたしは何だってしてあげるよ…。
大晦日の夜、お台場の特設ステージ。どこの民放局でもやるように、ＳＴＶでもカウントダウンイベントが開催されていた。
あたしと真帆子も、このお台場にやってきていた。
「叶花がこういうイベントに来るなんて、珍し〜じゃん？」
真帆子がポテチをかじりながら言う。
「あたしはイベント自体は興味がないんだけど、まあ、みんくが心配だからね〜。真帆子はこういうのって来たことあるの？」
「あたしは毎年来てるもんね。ＳＴＶの方には、今年はイリヤが来るしぃ☆」
どうやら、真帆子の目当てはイリヤのようだ。
ステージでは、たくさんのアイドルやアーティストが、歌を次々と披露していく。カウントダウンの時が段々と近づいていく。
「きゃ〜〜〜、イリヤよ、イリヤ〜〜〜〜！！！！」
突然真帆子の目の色が変わった。ステージでは、ＪＡＧＵＮＮＡの歌が始まっていた。
「イリヤよぉ〜。きゃ〜〜〜〜、イリヤイリヤ、かっこいいかっこいいかっこいい〜☆」
あちゃ〜…。真帆子ってば、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、すっかりお目々がはぁとマークだ。確かちょっと前まではハムタクとかいうアイドルが好きだとか言ってなかったっけ？ みーはーだなあ。まあ、確かにカッコいいし、歌も上手いし、ステージも迫力がある。真帆子やみんくがお熱なのはあたしにだってよくわかる。まあ、あたしは興味ないんだよね〜。
「みんくってば、あのステージの裏側で、このステージ、見てるんだろうなあ。」
「そうかあ。うらやましいなあ。」
真帆子はちょっとすねたような表情をした。そう言っている間に、刻一刻と２０００年の瞬間が近づいて来ていた。
「さあて、２０００年はもうすぐ！！ このミレニアムを迎えるに相応しい、ニューアイドルの登場です！！ Ｍｉｎｋちゃん、どうぞ〜〜〜〜☆」
司会がそう言ったかと思うと、ステージにはＭｉｎｋが登場した。
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜！！！！」
「み、Ｍｉｎｋちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん！！！！」
会場中からものすごい歓声が沸き起こった。その歓声に包まれるかのように、Ｍｉｎｋはステージの中央に立っていた。
「では、２０００年の瞬間を、Ｍｉｎｋちゃんの歌と共に迎えましょう！ 歌はもちろん、『百億の月』です。演奏は、プロデューサーのイリヤくん率いるＪＡＧＵＮＮＡの皆さんです！！」
ＪＡＧＵＮＮＡのノリにのった演奏をバックに、Ｍｉｎｋの「百億の月」がスタートした。
「み、Ｍｉｎｋ…。」
演奏にのって、ステージ中をかけまわり、元気一杯歌うＭｉｎｋ。あたしは、その姿に、目を奪われた…。Ｍｉｎｋ声、Ｍｉｎｋの笑顔…。Ｍｉｎｋの放つ輝きが、とてもまぶしかった。
あ、あれ…？ なんで涙が出てくるのかな？ Ｍｉｎｋのあまりのまぶしさに、目が痛くなったのかな？ あたし、一体、どうしちゃったのかな…？
あたしは、涙で曇った目で、ふと時計を見た。１１時５９分１３秒…。あと４７秒で１９９９年が終わる。Ｍｉｎｋの歌が終わるのとほぼ同時に、２０００年の瞬間がやってくるような演出が組まれているようだ…。刻一刻と時が刻まれて行く。やがて３０秒を切った。歌はすでに終わり、あとは後奏のみの時間に入っていた。曲に合わせて、Ｍｉｎｋはステージで踊っていた。そして、曲が終わる。あと１０秒。
「さあ、２０００年の瞬間です。５、４…」
司会の人が、歌い終わったＭｉｎｋを迎えながら、カウントを始めた。ステージを含めた会場全体が、カウントをコールする。コールの中には、Ｍｉｎｋの声も混ざっている。
「３、２、１……ゼロっ！！！」
その瞬間、ステージの周辺から花火のように閃光が走った。そして、会場が一瞬暗くなったかと思うと、ステージ上には、「祝 ２０００年」の光の文字が現れた。
「みなさま、あけましておめでとうございます〜〜〜〜！！！」
会場中から歓声が上がった。１０００年にたった１度しかやってこない奇跡の瞬間に、みんな酔っていた。
「あれ？ Ｍｉｎｋがいないね…？」
真帆子がつぶやく。そういえば、ついさっきまでいたＭｉｎｋの姿が見えない。
「ホントだ。どうしたんだろう？ ここでいなくなるってのもヘンだよね？」
「う〜ん？」
結局、番組が終わる午前１時まで、Ｍｉｎｋはステージ上に出てこなかった。
その後、あたしたちは、控え室のほうに行ってみた。何人ものタレントが出てくるが、Ｍｉｎｋはなかなか出てこない。じっと待っていると、息を切らして鳥海先輩がやってきた。なんだかとっても困惑した表情だ。
「あ？ 真帆子、森山さん！」
「あ、モッくん、お仕事おつかれ〜」
「モッくんはやめろ。兄ちゃんと呼べって言ってるだろ？」
「あの、先輩、なんだか難しそうな顔してますけど、どうしたんですか？」
あたしがたずねると、先輩は困ったように言う。
「おかしいんだ。オレもずっとさがしてるんだけど、Ｍｉｎｋがいないんだ」
え？ Ｍｉｎｋがいない？
「帰ったんじゃないんですか？」
「そんなはずはない。あの子は、帰る時にはちゃんと挨拶して帰る、礼儀の正しい子なんだ。…こんな夜中に、一体どこに行ったんだろう？ まだあの子は１４歳なのに…」
先輩は、本気で心配しているようだ。
「じゃあ、あたしと叶花も探してみるよ。でも帰ったんじゃないのかなあ？」
「う〜ん、でも、一応頼むよ。あと、真帆子も森山さんも早く帰りな。いくらお祭り気分でも、あんまり遅くまでうろつくもんじゃない。」
「モッくんだって、高校生のくせに〜。」
「モッくんはやめろって言ってるだろ〜？ じゃあ、オレは、探しに行くっ！」
先輩は、また駆け出して行った。
「でも、本当にＭｉｎｋってば、どこに行ったのかなあ？」
あたしも真帆子も、ちょっと心配になった。
「あんたのパソコン、Ｍｉｎｋの携帯と繋がってるんでしょ？ それで探せないの？」
「う〜ん、どうだろう？」
あたしはパソコンを出してみた。
「え…？」
あたしは、その瞬間、真っ青になった。
「叶花？ ど、どうしたの？ 顔が青いよ？」
「ぱ、パソコンが止まってる…。」
「じゃあ、スイッチ入れればいいんじゃないの？」
「そういう問題じゃなあい！ パソコンが止まってるってことは、“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”もとまってるってことなのよぉ？？？？？？」
「え？？？？？」
真帆子も真っ青になった。
「じゃ、じゃあ、Ｍｉｎｋは？？？？ Ｍｉｎｋはどうなっちゃったのよ…？」
「し、知らないわよ。あたしが知るわけないじゃない…。」
「と、とにかく、パソコンはつけられないの？」
「え、えっと…」
あたしは、パソコンを再起動した。画面が起動した。しかし、なんだかおかしい。普段なら、「ＷＡＮＮＡ−ＢＥ」が自動的に起動するのに、今度ばかりは起動しないのだ。
あたしは、「ＷＡＮＮＡ−ＢＥ」をマニュアルで起動した。すると、画面から、オムくんが飛び出した。
「た、大変だよぉ。」
「お、オム？ どうしたの？ 一体なにが？」
「なんだか時計が変だよお。一体どうなってるの？」
「え？ と、時計？」
「パソコンの時計のことだよお」
あたしは、画面の右下をクリックした。パソコンの時計の詳細が表示される。
「時計がどうしたの？ ちゃんと２０００年１月１日、１時４８分ってなってるじゃん？ ２０００年問題だって、完璧だよ。」
「え？ ２０００年問題っ！？？？？」
オムくんは、あたまをかしげた。
「２０００年問題も知らないの？」
「そ、そうか。し、しまった〜！！！」
オムくんは、急にオロオロし出した。
「まずいよ。叶花ちゃん。“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”は、２０００年問題には対応していないんだ…」
「ええええ？ それって一体どういうこと？」
「おそらくこの１９９９年、いや、もう２０００年だっけ？ この時代では、２０００年問題が浮上してるんだよね？」
「あたりまえじゃん？」
「僕のいた２０９９年でも、実は同様の問題、“２１００年問題”がおこっているんだ」
「ええ？ １００年後でもそんなくだらない問題を繰り返してるの？」
「“ＷＡＮＮＡ−ＢＥ”は、２１００年問題には対応済みなんだ。でも、それは、下３桁に限定してのことなんだ。よっていわゆる“３０００年問題”には対応していない。だから、当然２０００年問題にも対応できていないんだよぉ…」
「な、なんですって？ じゃあ…？」
「４桁の年号の変化に対応できなくて、ＷＡＮＮＡ−ＢＥはフリーズしちゃったんだよ。」
なんですって？ ４桁に対応できないからＷＡＮＮＡ−ＢＥがフリーズですって？ そういえば、あたしが数日前にＷＡＮＮＡ−ＢＥをいじったときに、うまく時計がいじれなかった。あの時はどうしてかよくわからなかったが、もしかして…？
あたしは、ＷＡＮＮＡ−ＢＥの時計の設定を再び開いてみた。今度は、ちゃんと時計の設定をいじれる。設定をつぶさに見ていくと、年代を見ることができた。年代をよく見ると、なんと、「０００」となっているではないか？
「な、なんてこと！？ じゃあ、１９９９年というパソコン側の設定とＷＡＮＮＡ−ＢＥの時計システムがかみ合ってなかったのね？」
そんなちょっとしたことのために、システムのエラーが起きるなんて…！！！
「じゃ、じゃあ、Ｍｉｎｋは？ みんくはどうなるのよぉ〜〜〜〜？？？？」
「わからないよお。」
「わかんないってそんな無責任な！！ 携帯で呼び出しなさいよっ！」
「だって、あの携帯はＷＡＮＮＡ−ＢＥから提供したものだもん。今のフリーズで、交信不能だよお」
そんな…。Ｍｉｎｋ、いや、みんくはどうなっちゃったの？ まさか、今のフリーズの影響で消えちゃったの…？
「い、いやああ！！ みんくが消えちゃうなんて、そ、そんな〜〜〜？？？」
あたしは、頭を抱えてその場にうずくまった。
「あたしが、もっと２０００年問題に慎重だったら…。ＷＡＮＮＡ−ＢＥの改造なんかに夢中になって、こんな時計の問題に無頓着だったなんて･･･。あたしが、時計の設定にもっとこだわってさえいれば…。みんくを変身なんかさせなかったのに…。み、みんく…」
真帆子が、あたしの肩をつかんで、ゆさぶる。
「ねえ、叶花。みんくが消えるなんて、冗談でしょ？ 冗談って言ってよ？」
「冗談だってあたしだって思いたいよお。みんく…。どうしよう…。」
結局、１時間以上あたしたちは探したが、Ｍｉｎｋは見つからない。
「叶花、もう、帰ろう？ また明日、探そうよ…」
「いや…。あたし、帰らない。みんくが帰ってくるまで、絶対帰らないんだからあ！」
あたしは、もうどうしていいかわからなかった。あたしがもうちょっと気をつけていれば…。
「あたしのせいだ…。２０００年問題対策が万全だなんて、思いあがっていたあたしのせいなんだ…」
「叶花のせいじゃないよ。ねえ、叶花。もう、止めようよ…」
あたしたちが、途方にくれていたその時だった。
「真帆子ちゃん？ 叶花ちゃん？」
突然うしろから声がした。
「…え？」
ふりむくと、そこにいたのは…。
「み、みんく？」
「二人とも、どうしたの？」
「みんく？ みんくなのね？ みんく〜〜〜〜！！！！」
あたしも真帆子も、みんくのもとにかけより、みんくにすがってワンワン泣いた。
「ばかあ！！ 一体今までどうしてたのよお？ 心配したんだからねえ！！！」
「え…？」
あたしたちが泣きじゃくる一方で、みんくは一人キョトンとするのみだった
みんくは、あたしたちに、一体何があったのかを、話してくれた。それによると、２０００年を迎えた瞬間、変身が解けてしまったというのだ。
「あたし、焦っちゃったよ。会場が暗くなったから、いそいで逃げたけど、舞台裏にはテレビ局の人が一杯でしょう？ もう１度変身しようと思ったけど、どういうわけか変身できなかったの。それで、倉庫に隠れて、テレビ局の人がいなくなるのを待ってたんだあ。」
「でも、それにしたって、出てくるのが遅かったじゃない。心配したんだよ？」
「えっとね…。隠れている間に、眠っちゃったんだ…」
はあ？ あれほどあたしたちが心配してたのに、こ、この子はあ！！！
「もう！ どれほどあたしたちが心配して探してやったと思ってるの？ だからこの子はほっとけないんだからあ！」
「ごめんね…。心配させちゃって…」
「あ、心配っていえば、お兄ちゃんが心配してたよ。Ｍｉｎｋが突然いなくなったって」
「あ、いけな〜い」
みんくは、先輩のもとに電話をかけた。携帯ももう１度セットアップしなおして、使えるようになった。
「はい。ええ。ちょっと、急な事情があったんです…。はい。ごめんなさい。無断で帰るなんて、もうしません…」
しばらく携帯で話したあと、みんくは電話を切った。
「先輩、怒ってた。心配させちゃった…」
「でも、本当におそくなっちゃったね。もう、帰ろうか？」
あたしたちが歩き出そうとしたときだった。
「おい？ お前たち、まだいたのか？」
そこに鳥海先輩が息を切らしてやってきた。
「あ、せ、先輩？？？」
どうやら、あたしたちと先輩は、あまり遠くない場所にいたようだった。
「あ、Ｍｉｎｋは見つかりました？」
あたしは、さりげなく聞いてみた。
「ああ、どうやら急用で帰ってたらしい。ついさっき携帯に連絡が入った。まったく、心配させるんだからなあ。」
先輩は、やれやれと言った表情だ。
「さあ、お前たちも、かえるぞ！ まったく、朝帰りなんて、とんでもない」
あたしたちは、近所までタクシーで帰ってきた。
「さあ、ちゃんと帰るんだゾ。真帆子、母さんを心配させるな」
「へーきへーき。モッくんこそ、たまにはママに会いに来なよ。」
「モッくんはやめろ」
「じゃあ、先輩、あたし、帰りますね。」
「ああ、森山さん、また今度な。」
「あの、先輩…」
「ん？ なんだい？ 白石さん？」
「その…。送ってくれて、ありがとうございました…」
みんくがもじもじしながら言う。
「みんく、もしかして…？」
あのお子ちゃまのみんくがまさかとは思うけど、でも、なんだか先輩をみつめるみんくって…。
「ねえ、先輩、みんくを送って行ってあげてよ。この子、トロいからさあ。なんだか心配だしぃ」
「そうかい？ そうだねえ。じゃあ、白石さん、近くまで送ってあげるよ」
「え？ で、でも…？」
「まあまあ、遠慮するなって。じゃあ、行こうか？」
どぎまぎするみんくの背中をポンとたたくと、先輩はみんくを連れて、行ってしまった。
「みんく、もしかして…？ でも、まさか…、ね…？」
あたしは、二人の背中を見送りながら、ちょっと微笑んだ。
部屋に戻ると、あたしはパソコンを開いた。ＷＡＮＮＡ−ＢＥも時間をリセットすることで、どうやら正常な動きを取り戻したようだ。
「まだまだあたしって、甘いなあ…。あたしがもうちょっと２０００年問題に慎重だったら…。あたし、思いあがってたんだ…。あたしのコンピュータの腕なんて、まだまだ甘かったのかなあ…？」
あたしのせいで、みんくが危ない目に遭うなんて…。もしかしたら、最悪の場合、みんくが消滅してたかもしれないのに…。あたしのせいで…。時計が変だって気づいていたのに…。あたしは、改造に目を奪われて、時計の問題をほっておいたんだ…。あたしが、もっとちゃんとしてれば…。
「ごめんね、みんく。あたし、もっとしっかりするよ。今度こそ、あたしがみんくをしっかり守るよ。だから、みんく、あたしの前からいなくならないでね…。あたしを嫌いにならないでね…。そして、ずっとあたしの友達でいてね…。」
ふいに、あたしの目から、涙が溢れて、落ちた…。
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えっと、ちょっちコメントを。
２０００年問題の脅威は過ぎ去りましたが、１０００年後には３０００年問題が来るでしょう。それ以前に、２１００年問題ってあるのかもしれませんね。…とか、そういうことを考えているうちに、この作品ができました。２０９９年の人たちって、おそらく２１００年問題には悩んでいても、３０００年問題までは絶対考えが及んでいないだろうなあって、思いました。そんなソフトを１９９９年に持ち込んだら一体どうなるのか？ そう思ってこの小説を書きました。
またしても叶花ちゃんが主役。今回は「問題作」ではないと思いたいんですが…。え？ やっぱり「問題作」ですって？ う〜ん、どうだろう？（苦笑） それにしても、私って本当に叶花ちゃんを主役にばかりしてるなあ。たまには真帆子ちゃん主役ってのも書きたいけど、でも、なぜか叶花ちゃん♪（爆）
では、次回作をお楽しみに！！！
（※「イリヤくんの寝顔」はどうなったの？…というツッコミは御勘弁を！）