☆今期分の二千語☆

「マウントジョイから、スランプを治す方法を思いついたから、事務所に来ないか、と電話があったとき、どんなにほっとしたかわかるだろう。ぜったい治せると言うんだ。そしてそのとおりだった。あいつは、どんなくだらないことでもいいから、思いつくままに二千語書いて、三ヵ月ごとに送ると約束しろ、と言うんだ。ただし私が考え出したもので、今まで書いたことのないものじゃなきゃいけない、前に書いたものの焼きなおしでもいけない、そして市役所まで届けなければいけない、とね。」
（「七人の魔法使い」　Ｄ・Ｗ・ジョーンズ作　野口絵美訳　徳間書店　２００３年）

↑の作品を読んで、スランプ脱出の手がかり＆物を書く練習に少しでもなればと、私も二千語を書く事に決めました。
四百字詰め原稿用紙五枚程度のオリジナル短編です。下手の横好きの習作ですので、お暇な方だけどうぞ（汗）☆小説☆

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『機械じかけの姫』　（神無月　風）

　あるところに、ひとつの王国がありました。その国のものは、すべて機械じかけでできておりました。

　王国の中心には機械じかけのお城が建っていて、機械じかけの姫が住んでいました。姫はとても美しく、長い髪は黄金、輝く瞳はサファイア、微笑みをかたどる唇はルビー、歯は真珠でできておりました。また、姫のおつむでは、どんな時でも正確な判断を下すように、最新型のコンピュータが休みなく働いておりました。

　機械じかけの姫が支配する、機械じかけの王国は、毎日変わる事なく平穏な日々を送っておりました。

　機械じかけの姫には、毎日決まった時間に、お城で一番高い塔のバルコニーへ上り、音楽を演奏する日課がありました。姫はどんな楽器も完璧に演奏できたので、その噂は近隣諸国までとどろいて、機械じかけではない大勢の外国人が、姫の演奏を聞こうと、連日、集まりました。

　ある日のことです。姫がいつものように塔に上って演奏を始めると、塔の下に集まった大勢の観光客が、姫の美しさと、演奏の素晴らしさを、口々にほめたたえました。ところが、群集に混じって、姫の奏でる音楽を聞いていた、ひとりの旅の吟遊詩人が、こう言って頭を振りました。

「確かに姫の演奏は完璧だけれど、私には素晴らしいとは思えない」

　それを聞いた機械じかけの衛兵が、王国の姫に対する不敬罪で即刻、男を逮捕して、姫のところへ連れて行きました。

　王座の前に引きずり出された男に向かって、姫は尋ねました。

「おまえはわたくしの音楽を素晴らしいとは思えないと言ったそうだけれど、それはどういうわけですか？」

　吟遊詩人はひざまずいて答えました。

「姫の演奏は完璧で、一音の狂いもありません。だけど、姫の奏でる音楽には、ひとつだけ足りないものがございます」

　姫は金糸でできた美しい眉を、優雅にひそめて聞き返しました。

「わたくしに足りないものとはなんですか？」

「それは心です」

　吟遊詩人は静かに答えました。

「どんなに完璧でも、姫の演奏には、そこにこめられた心が感じられません」

「では、心のこもった演奏というものを、わたくしに聴かせてください」

　姫が命じると、吟遊詩人はハープを取り出し、爪弾きながら歌いました。それは自然や、生き物や、人を愛する心を称える、明るく晴れやかな歌でした。

　吟遊詩人が歌い終わると、姫は衛兵に命じて、吟遊詩人のハープを取り上げさせました。そして、吟遊詩人がしたのとそっくり同じように、ハープを奏でて歌いました。吟遊詩人がほんの少し声を上ずらせたところも、ハープを一音外したところも、完璧同じに演奏し終えると、姫は吟遊詩人に言いました。

「どうです？　これでわたくしも心のこもった演奏ができると分かったでしょう？」

　吟遊詩人は深くため息をついて、頭を横に振りました。

「いいえ、姫の奏でる音楽には、まったく心が感じられません」

　それを聞いた姫は、吟遊詩人をお城の牢に閉じこめるように命じました。

　それから毎日、姫はお城にあらゆる国の音楽家を招き、あるいは自ら訪ねて、さまざまな演奏を聴きました。そして、その日聴いた音楽を、牢にいる吟遊詩人に、そっくりそのまま演奏して聴かせました。演奏を終えると、いつも姫は尋ねました。

「わたくしの音楽には心がこもっているでしょう？」

　しかし、吟遊詩人の答えは決まっていました。

「いいえ、姫の奏でる音楽には、まったく心が感じられません」

　とうとう世界中の音楽家の演奏を、姫が真似し終えても、男の答えは変わりませんでした。

　その翌日、姫は男を連れて、お城の塔へ上りました。バルコニーに吟遊詩人を立たせると、姫は言いました。

「今からわたくしは、もう一度だけ音楽を演奏します。その音楽にも心がこもっていないと答えたら、おまえはここから落ちて死ぬのです」

　吟遊詩人は悲しそうにうつむきましたが、それでも姫に答えました。

「いいえ、この先、どれだけ姫が音楽を奏でても、その演奏に心が感じられることはないでしょう」

　それを聞いた姫は、男をバルコニーから突き落とそうと腕を伸ばしました。その瞬間、強い風が吹いて姫の体をさらいました。バルコニーに吟遊詩人を残し、姫はまっ逆さまに落ちました。

　塔から落ちながら、姫は歌を歌いました。それは初めて吟遊詩人が姫の前で演奏した曲でした。しかし、風にあおられた姫の声は、ひどく調子が外れて、まったく違う曲のように、物悲しげに響きました。

　やがて、機械じかけの衛兵と、吟遊詩人は、塔の下で粉々に砕けた姫の体を見つけました。

　もう音楽を奏でることのない姫のなきがらを見つめ、吟遊詩人は涙をこぼして、呟きました。

「ああ、姫。塔から落ちた時の、あなたの歌には、確かに心がこもっておりました」

おわり

（２００４年４月１５日校了）